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監獄

 百鬼の方が陰陽師より圧倒的に強いのに、数の優位すらある。世界を守るべき聖戦にしては、あまりにも稚拙で矮小だ。絶体絶命感が百鬼側にまるでない。負ける理由がないのだ。この世界の法則に気が付いていた天賀谷絢爛だろうが、弓削是音だろうが、加茂久遠だろうが、成す術なしで敗北している。


 「ふふふ。もっと柵野栄助の抹殺に人員を割くべきでは?」


 「あぁ。だからお前たちへの任務は露払いだ。それらの任務が終われば……こちらを援護して貰う」


 宇宙空間で人狼が舌なめずりをする。残る百鬼の面々も不徳の致す限りといった表情だ。自分たちの生命にもう価値はない。最強の悪霊への道は閉ざされて、元の時代に帰ることは出来ず、あとは柵野栄助のどう調理されるかといった状態。こんな使い古された設定の残り粕のような扱いで、魂をかけた戦いに乗り出せないというのは、至極真っ当なんだと思う。


 しかし、獄面凱王は姿勢を崩さない。


 「陰陽師を舐めるな。あいつ等は我々の知らない何かを知っている」


 元より悪霊を倒すのが陰陽師の務め。百鬼は悪霊の成れの果てなので、向こうに戦う理由があるのは必定。しかし、百鬼からすると、あまり戦うメリットはない。迷惑千万極まりない連中と言える。


 「我々は……何を希望に思って戦えばいい?」


 プロトゴーレムジャリーマ。大型の円柱のような見た目の土人形がそう呟いた。


 「我々は咎人だ。だから恨まれて殺された。この中には人殺しの経験がある奴もいるだろう。ここは江戸時代の風景を保った監獄だ。僕たちは死刑囚。自分が電気椅子に座る瞬間を、首に縄を巻く瞬間を、ギロチンで首を切断される瞬間を……ただ待つだけ」


 そうだ。百鬼はその殆どが多くの悪霊を引き付けた程の極悪人だ。偽神牛鬼は病院を守る為に、病院側の不祥事を揉み消し、無実の人間を罪人に追いやった。伊予羅刹龍は政治家として多くの若者の未来を自分の勝手な愉悦の為に踏み潰した。今まで倒してきた百鬼には、連続殺人鬼や放火魔もいた。両肩に山ほどの悪霊が顔を覗かせるくらい恨まれていた。


 ここにいる面々も同じことだ。


 「もう……僕は辛い。このまま生殺しにされるのは。こんな化け物になって、こんな世界に閉じ込められて、他の百鬼は死んでいった。殺し合いをしろと言われて、今度は協力しろって言われて、もう沢山だよ」


 「ならば、ここで人間に戻るか?」


 武雷電が一切労いのない厳しい言葉を発する。人間に戻るなんて真似が可能か分からないが、ここは宇宙空間である為に、人間に戻れば身体はバラバラになるだろう。


 「貴様も咎人ならば覚悟を決めたらどうだ! 潔く処刑されるがいい。自分の罪を背中に背負って、敗者の無念を心に抱いて、それでも光を見た者が頂点に君臨する。妖力さえあれば時間も空間も超えられるのは証明されているのだ。ならば……」


 もう引き返せない。戻れない。帰れない。極悪人は極悪人のまま。処刑を待つだけの罪人ならば……。その悪逆のとがさえも我が物とする。恨まれたことを悔いて反省するのではない。背中に山ほどの悪霊を背負ったまま、もっと恨まれる。もっともっと……悪意を募らせる。


 「鬼になれ。畜生になれ。捨てた心を拾い上げて真っ黒に染めろ。もっともっと魑魅魍魎跋扈せよ。悪の牙たちよ。今更、貴様らの罪が許されることはない。ならば楽に死のうとするな。残忍になれ、残酷になれ……もっともっと恨まれろ」


 武雷電の心の中に……元の正義の心は霧散していた。ここには純粋な悪意しかない。

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