蜉蝣
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考えても埓があかない。もう突っ込むしかないのだ。
「行くのですか?」
「行くしかないだろ」
底無し茶の間が見つかった。場所は江戸からそう遠くない田舎に存在する農家の家。勿論、盗賊の隠れ家でもなければ、妖怪の住処ではない。だが、あの汚らしい粘液のついた鎧が、その家から発見されたという情報が入った。
「陰陽師として診断します。この金属性の御札に反応があります。人工物が眠っている。金属が存在しています。この地下に莫大な武器が眠っている」
その家に来てみると、本当にあの鎧があった。我々の接近に伴って、身を隠したり、罠を張ったりという様子もない。逃げも隠れもする気はないらしい。あの時の鐘の時と同じように、意味もなくポツンと置いてある。この家の人間は既に他界していた。あの悪鬼の影響ではなく、病気で数年前に亡くなったという。つまり、この地は空き家なのだ。
「ここに悪鬼が住み着いているのですね」
「迂闊に中に入るなよ。引きずり込まれて今度こそ殺される。まだ俺たちは相手の能力も真意も把握できていない」
気になる点と言えば、相手の妖怪の造形である。妖怪の種類は大きく分けて二つ。人間か獣か。どちらかだ。でも今回の相手はそれが分からない。血染蜘蛛のように昆虫がモチーフの妖怪だと当初は考えていた。
薄翅蜉蝣。トンボによく似ている外見で、細長い体、丸い頭と細長い翅を持っている。その幼虫である蟻地獄と呼ばれる昆虫が妖怪になった姿だと予想した。だが、その考えを頭の中で否定した。違う、そうじゃない。
蟻地獄は巨大な大顎から、顎の力で獲物を粉砕しているように見えるがそうじゃない。獲物に対して毒性を示す消化液を注入し、獲物は昆虫病原菌に感染したかのように黒変して致死する。ちなみに成虫も幼虫も肉食だ。そんな気色の悪い虫が捉えた獲物を意味もなく逃がし、武器だけ回収するなんて有り得ない。特に佰物語は人間の記したものだ。そんな裏表のない習性通りの面白みのない話は書かない気がする。
「あの妖怪は何者なんだ。どういったモチーフなんだ」
「滋賀栄助さん。少し聞いてもらえますか? 陰陽師の中で今少し話題になっている分野があります。妖怪のモチーフは『人間』か『獣』。このように言われていますよね」
「それがなんだ」
「でも見識者の中で新たに三つ目の種類が発表されたのです。『付喪神』という人間の使う道具や家具にとり憑いて、妖怪となる種類が現れたと」
そう言いながらこの古びた家を二人で見直した。




