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密輸

 刀が無くなっている。血染蜘蛛を倒した時の、あの巨大化した魔獣の牙のような刀が鞘ごと腰から消えている。滋賀栄助は悔しそうに唇を噛み締めて下を向いている。あの砂には意味があったのだ。武器を奪うという意味が。


 「お前は?」


 「何も奪われていないと思います」


 武器と言っても御札や服、装飾品は奪っていないらしい。あくまで取られたのは刀のみ。


 「ここまで来たら妖怪の名前が分かったか?」


 「佰物語九十二章『底無茶の間』」


 茶の間とは、日本家屋の中で、家族が集う、生活の中心となる部屋のこと。物語では武器商人との密輸をする盗賊一家が武器を買い占める。だが、倉庫に戻るといつも、武器が消え去ってしまう。疑心暗鬼にかられた一家は、お互いを疑い始めるが、隠している場所がわからない。取っ組み合いの喧嘩になっても、致命傷を負わせる武器は即座に無くなってしまう。だから死人は出ない。


 ここまで読むと平和な物語に思うかもしれないが、この物語のラストは衝撃的だった。密輸で儲けられないと悟り、武器を買い占めるのをやめる。家族団欒で飯を囲んでいると、急に茶の間が沈み始めた。囲炉裏やヤカンで火傷をする者。箪笥たんすに頭をぶつけて怪我をする者もいる。部屋の中心に引きずり込まれる。


 床が抜けてしまったのではない。地震で家が崩れているのでもない。蟻地獄のように吸い込まれているのだ。まるで中心にいて大口を開けている化け物が待ち構えているように。結局最期は、武器と一緒に一家全員の死体が発見されて、化け物は姿も現さないまま、何が目的かも真意も不明のまま、何も分からずに話が終わる。


 「あの物語は一家全員が死んでしまった。今回はそうならなかっただけマシなんでしょうね」


 「そりゃあ史上最悪ではないかもだけど、極めて最悪だよ。暴神立あばれかんだちを奪われたってことは悪鬼を倒す術を奪われたも同じこと。仮に奴の居場所を特定しても、悪鬼の正体や能力を見抜いても、我々には不死身である奴らを倒す方法がない」


 「……やっぱりあの妖刀は佰物語専用なんですね」


 そもそも武器を奪う能力のいる悪鬼がいるならば、少しは警戒しても良かったのではないか。刀を遠くへ投げ捨てれば良かったのではないか。上半身は動かせた。投げ捨てる時間くらいはあったはずだ。


 「あの……」


 「警戒しろよ、とか言いたいんだろ。私はその本を一度しか読んでいない。そういう面倒なことはお前に任せると言っただろ」


 いよいよ、絶望的に感じてきた。冷や汗が垂れて、急に頭が重く感じた。

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