寄生
「自業自得だと……そうかもしれないな。でも、それはお前ではなく法律で裁かれるべきだ」
「だから裁いていないって。お前、勘違いもいい加減にしろよ」
「お前が死人を悪霊として蘇らせて、恨みの対象に差し向けているのだろう!」
「そんなことをして、私に何の得がある」
「正義の味方にでもなった気分じゃないのか。裁判官として楽しんでいるとか。人の生き死にを左右できる立場がこの上なく気持ちいいのだろう」
「はぁ……。どこの誰が死のうが、生きようが、興味ないよ。私は小学生だぞ。あの頭のおかしい爺の気味悪さを私にまで投影しないでくれ。私は私だ……」
「違う! お前が元凶だ!」
「だから違うって!」
半分は正解。半分は間違い。薬袋的は悪意など無かった。彼女は誰も自己意識を持って殺していない。いや、誰が死んでいるのかも知らなかった。全くの蚊帳の外。確かに祖父が何やら怪しい実験をしていることは感じ取っていたが、それだけである。特に初期の彼女は何も知らないに等しかった。これが獄面鎧王の間違い、いや検討違い。
では、彼の正しかった所は……? 全ての元凶が薬袋的だったという点だ。早い話が薬袋的を初期段階で殺しておけば、何も問題は起こらなかったのだ。薬袋纐纈など何も出来ないただの老人だ。見当違いであったとはいえ、この連続変死を食い止める狙いは正しかったのである。
薬袋的は無意識だった。無感情だった。無作為だった。彼女は決して悪者ではない。
それでも……殺しておかなくてはならない人物だった。ここまでの記述を獄面鎧王が全て認識するには、彼女は最終段階に入っていた。雪山で最期を遂げるその時まで彼は全貌を知れなかった。
彼は……バトルロワイヤルなんて知らなかった。他の四人とは全く違う理由で戦っていた。彼は陰陽師でもないのに、ただの学者だったのに、たった一人で人間を守る為に戦っていたのである。
獄面鎧王。黒い鎧。ただの鎧であり、他の百鬼に寄生して強化する能力を持つ。百鬼将の名に恥じない優位な能力だ。自分の命を消費せずに戦うことが出来る。妖力も他の百鬼と桁違いだ。その身を空気の無い宇宙空間でも、自らの身体を保てるほどに。
★
「貴方は……黄泉獄龍を探していますよね。百鬼将最後の一匹にして、売れない小説家」
「ふん……」
大阪城の最上階。薬袋的の姿と同じ名も無き戦乙女は畳の上に正座で座り込んだ。対峙するには陰陽師の名家の党首の一人。青色の着物を着た青年。水上几帳、その人。
「独眼巨人にこの本を預けて……彼は消息を絶った」
他の百鬼を……物語の登場人物に変化させた張本人。彼は……売れない作家であった。
薬袋的の笑顔が消えた。そして、まだ水上几帳は余裕の笑みを浮かべる。




