看破
怒りを感じていた。血管が浮き出ていると錯覚するほど、怒りの感情を感じる。今日、この場で初めて出会った人物のはずだ。滋賀栄助と絵之木実松は、これまで百鬼を倒す為に尽力している。今まで何もしていない人物から詰られる言われはない。
……はずなのだが。
「私のことは知っているな」
「知らねーよ。名前だけ名乗られても分からねぇよ」
「陰陽師の名家の党首の一人です。その中でも世の中に認知された最も有名な方。剣術の神と呼ばれた男です。伝説上の人物なんですよ」
「ほーん」
勿論、オリジナルではない。恐らくは子孫であろう。代々その血を保ってきたのだ。それか、剣術を後世に伝えて代々受け継いできたのだ。滋賀家のように将軍家に仕える剣術道場ではなく、田舎凄腕剣法と表現するのが性格なのだろう。
それなのに、鬼一法眼は刀を持っていない。ただの大男と表現して差し支えない。妖力を感知出来なければ陰陽師だと判別もつかないだろう。如何にも田舎者の雑な格好。天賀谷絢爛と丁度真逆の感触を受ける。
「なるほど。実際に顔を合わせてみてよく分かった。お前達は偽物だ。いや、半端者と表現するのが正しかろう」
「なんだと……」
その言葉に滋賀栄助が反応する。その言葉は禁句だ。彼女は自分が滋賀栄助なのか薬袋的なのかを気にしている。どちらでもあると言い張っている。態度は強がっているが、それは不安の裏返しだ。特に薬袋纐纈に出会ってから、そういう一面が色濃く出ている。
ん? 達? 絵之木実松がキョトンとした顔をする。
「そんな嫌味を言う為に、わざわざこんな場所まで来たのか? ふざけやがって!」
滋賀栄助の金切り声を相手にせずに、絵之木実松の方をジッと見る。
「あの……私は……」
震えた声を出した絵之木実松を、またギロっと睨んだ。鬼の様に鋭い目。憎悪を刷り込んでいるような、明らかな敵意を感じる眼差し。
「ワシの目は『看破の魔眼』と呼ばれている。真実を見破る者、偽りを暴く者」
背丈が高く覗きにくい。だが、その目を注視すると吸い込まれそうな感覚がある。
「看破……」
「化けの皮を剥いでやると言っているのだ。津守都丸……」
その言葉を聞いた瞬間に絵之木実松は……目を真っ白にした。受け身を取らずに頭から地面に倒れる。慌てて滋賀栄助が背中を受け止めた。
「お前は……絵之木実松ではない。絵之木実松など存在しない。お前は……津守都丸。ワシと同じ名家の党首の一人だろうが。思い出せ、自分の使命を……」




