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蠍座

 御簾を狙って毒針を振るう。一直線に影を狙って刃を突き刺す。容赦の無い一撃。その毒は人間ならば一瞬で絶命に至らせる猛毒。蠍は攻撃しなければ襲わない……本来は臆病な生き物なのだが、今回に限りはそうではない。殺意の籠った一撃。


 「陰陽師の親方とやら。そのクビ……貰ったぞ」


 御簾が天井から垂れ落ちてくる。地面にジャラジャラと音をたてて落ちた。そして、首を曲げられた生き物が姿を現す。毒など意味が無かった。その強靭な鋼鉄の尾で獲物の首をへし折った。そして……甲蠍堅牢砦は驚く。目を見開いて唖然とする。


 「何だ……これは……」


 人型ロボット。とは言っても、人間になど全く似ても似つかない。両足は無く、胴体のまま地面に着地している。両腕は関節がなく棒のようだ。全身の造形は丸い印象で、全身は真っ白。目は穴が開いたように真っ黒で電気のよって光っている。口は小さく開き、閉じない。髪の毛や耳、眉毛など、生き物でない物には不必要な物は……基本的には無い。ただ胸には真っ黒な液晶画面が映っている。


 「これが……お前たちの……いや、違う。逃げたか!」


 「逃げてない、逃げてない。大丈夫、それは僕たちの親方様で間違いないよ」


 替え玉と考えるのが自然だ。囮を置いて、影武者に隠れて、偽物を用意して然るべきだ。しかし、現実はそうではない。土御門芥は……興味無さそうに甲蠍堅牢砦を床に寝そべって眺めて、水上几帳はニコニコ笑う。


 「カラクリ……なのか」


 「違うよ。カラクリって……江戸時代じゃあるまいし」


 江戸時代だ。この現代は江戸時代のはずだ。だから、この時代の党首が人間であるはずだ。ロボットが陰陽師を支配しているなんて……まるで……もっと未来の世界みたいじゃないか。


 蠍は砂漠にいるイメージが強いだろうが、実は日本にも生息している。有り触れた生き物だ。それでいて、世界が滅んでも人間同様に生き残る確率が極めて高いと言われる。生命力が高く、あらゆる環境に適応し、身を守る術があり、繁殖力もある。生物史の中でも中々の逸材と表現して差し支えないだろう。


 「コンニチハ」


 そんな蠍が未来を見ている。こんな機械は……昭和の時代にも無い。まだ発明されていない。その機械は温度を感知している。声を理解している。声を発することも出来る。腕で物を持てる。そして……他人の感情を理解できる。


 水上几帳は楽しそうに頭の位置を元に戻した。


 「これは……」


 次の瞬間に人型ロボットは……液晶画面に映像を流した。蠍座の星が映像として出て来る。

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