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赤銅

 甲蠍堅牢砦は真っ直ぐに最上階へ向かっていた。百鬼将と戦う選択肢を取らず、滋賀栄助と戦う選択肢も取らない狙いは、ただ一人。その足取りは躊躇なく、遠慮なく、迷いなく、ただ一直線。この城で最も偉い人間だ。親方様、その人。陰陽師機関最高権力者。


 「おやおや」


 遂に襖を開けた。堅牢砦は真剣な眼差しで御簾を睨む。白銀の尾がゆらゆら揺れる。赤銅の鎧が太陽光に照らされて真っ赤に光る。真っ黒な目がギラギラ光る。


 「この城の護衛人もいい加減に人材不足ですか。残念ですね」


 水上几帳が優しい顔でそう言った。余裕があるのか、自身があるのか、その意図は読めないものの、全く動揺していないのだけは確かだ。それは土御門芥も同じこと。お子様は綾取りを独楽に巻き付けて遊んでいる。心底、楽しくなさそうに。


 怯えてはいないのだが、だからと言って護衛をしている様子もない。


 「おや、お話出来ないタイプの百鬼さんですか?」


 「……口はきける」


 「どうして此処へ馳せ参じられたんですか? 此処には貴方が望むものは無いですよ?」


 百鬼将を相手に無謀な戦いを挑む訳でもない。だが、逆転を狙って滋賀栄助の持つ天和御魂を狙い襲う訳でも無い。この大阪城を攻め落とすのは時間の無駄、労力の無駄、カロリーの無駄。全く意味の無い行為である。ここには何もない。


 「いいや。ここには意味があると思っている」


 そう言葉を伝えた。水上几帳は少しだけ眉を動かす。土御門芥が……少しだけこっちを見た。


 「百鬼将の一匹である伊代羅刹龍が此処を襲った。最近にも、この場を襲った百鬼が三匹いたはずだ。そいつ等は……元陰陽師だったはず。この地には何かがあるはずだ」


 そう。この地は何度も百鬼に襲われている。それも強い百鬼に。伊代羅刹龍、世界蛇、氷獄蝙蝠。今まで滋賀栄助が退けてきたので、上手く切り抜けてきただけ。今この場には滋賀栄助はいない。


 「その御簾の中に……何がいる……」


 堅牢砦は全てに気が付いているのではない。いや、何も分かっていない。しかし、勘づいている。この御簾を狙えば、何かが……あると。


 「どうぞ?」


 「どうぞって、お前達のかしらではないのか?」


 返事もせずにニコニコしている。水上几帳は肯定も否定もせずに、正座をして急須で入れたお茶を啜りながら、微笑ましい笑顔をしている。土御門芥も独楽を回して楽しんでいる。護衛をする気など一切ないらしい。


 抗うなら即座に殺すつもりだった。仮にも陰陽師の頂点に君臨する二人のはず。当然、戦う流れだろうと踏んでいたのに。そんな気配は微塵もない。殺すなら、さっさと殺せば? とでも言わんばかりだ。


 「驚いたな。最後の抵抗を必死にすると思っていたぞ」


 「する訳ないじゃないですか。僕たちでは未来の悪霊である君には一寸も及びません」


 「そうか。ならば、その御簾の中の人間を殺させて貰おう」

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