毒針
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大阪城。安土桃山時代に摂津国に建築されて、江戸時代に修築された城。この城の天守閣には立派な御殿がある。天守閣と呼ばれる象徴的な建造物の一番頂点の部屋。窓から全ての景色を堪能できる、全てを見下ろす座。この部屋には大きな御簾がある。この城の現主である親方様の姿を隠す為だ。遥か昔から陰陽師機関を束ねてきた安倍晴明の子孫。最も位の高いお方。
この城には二人の人間がいた。名家の党首の一人である土御門芥。その人は結界術に長けた天才であり、若き優秀な陰陽師である。しかし、若過ぎる。まだ年端も行かぬ未熟な子供。それにより大阪城で親方様の護衛と名を売って、城にいて何もしていない。
もう一人は……水上几帳。彼もまた名家の陰陽師の一人であり、異世界の扉を感知する能力を持つ。いわば平行世界を感じ取れる能力だ。そんな彼は青色の長髪に仰々しい烏帽子を被って、小型の扇子を仰ぎ、優雅に佇んで見せる。水上几帳は陰陽師として優秀である。以前に滋賀栄助や絵之木実松と一緒に戦ったこともある。
そうこの二人……だけが、この城にいる。
「中盤ですね……中盤だとは思いませんか? 芥さま」
返事が聞こえない。彼は自分の足の指にあやとりを巻き付けて、至極面白みがないという表情で座り込んでいる。そのうち、身体が仰向けになって天井に向かって足を延ばした。その体制からあやとりを続ける。
「今、浦賀に黒船が来航しているようですよ。何でも空飛ぶ空中要塞だとか」
一点も曇りの無い笑顔で話しかけるも、全くの返事がない。土御門芥は邪気のある子供のように、全く意に介さず遊んでいる。親方様の目の前で無礼千万極まりない。それでも誰も彼を咎めない。
伊代羅刹龍の襲撃により、本来親方様の住まうはずの『御門城』は倒壊してしまった。それで、この城へ緊急避難をして来たのだが。やはりこれも茶番と言わざるを得ない。だって……初めから……。
辺りには死体が散らばっていた。彼ら二人がいる部屋以外の廊下。その全てが血塗れなのだ。部屋に向かっていた百鬼がいる。甲蠍堅牢砦。全身を蠍の甲殻に覆われている。人間のように両手両足があり、腰には日本刀を帯刀。左手にも刀を握っている。そして、特出すべきは真っ赤な鋼銅の皮膚と鋼の尻尾である。白銀に煌めくその毒針は……白竜を連想させる。
落ち武者のようであり、怪物のようであり、蠍のモチーフの化け物だ。彼は滋賀栄助と戦わず、百鬼将と戦わず、まだ名も無き戦乙女とも戦わず、一直線にこの場に姿を現した。物語は終わっており、当然現世の記憶を持ち合わせている。




