提督
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この戦いを見ていた人物が二人いる。一人は言わずもがな、津守都丸。陰陽師の8人の名家当主にして、将軍家に仕える武士のフリをした陰陽師である。という、設定の男。そして、もう一人は百鬼の中でも百鬼将に次ぐ実力を持つと言われる大首領黒幕だ。彼は提督のような恰好をして、指令室で佇んでいた。優雅にワインを口にしながら、背徳者イレイショナルと名も無き戦乙女との戦いを見物していた。
その後、自分でも勝てないと悟った。自分が思い描いているような、ただの小娘ではない。もし本当にレベル3の悪霊なのだとしたら、もう勝ち目はない。百鬼将を超えている事になる。そうして、自分の身を守る為に逃走を図ったのだが……部屋から出る事が出来なくなっていた。
密室。閉じ込められた。
「これも妖力が成せる技か……」
平静を保っているが、冷や汗が止まらない。この空中艦隊がまさか自分を逃がさない為の鉄檻になろうとは。恐怖で顔が歪んでいく。戦闘員ネバット達は、自分の指揮下の萎縮ぶりに怯えが伝染する。死ぬことすら恐れなかった無限に増える量産型悪霊であるネバットも……恐怖で震え上がる。
死ぬことが怖いのではない。恐れているのではない。薬袋的と相対するのが怖いのだ。理屈を無視して、物理法則を無視して、感情を無視して、常識を無視して、あの悪鬼羅刹は襲い掛かってくる。殺される……では済まないかもしれない。相手は本物の悪霊なのだ。どんな戦闘データも参考になるものか。
「ネバット! 何をしている。早くあの女を迎撃してこい!」
と口走った瞬間に、無限の兵隊である戦闘員ネバット達は走り出した。しかし、薬袋的を倒す為に駆け出したのではない。全員が一斉に……窓の外へ身を投げていった。とても分かりやすい投身自殺。まるで若者が真夏に高台から海に身を投げるような勢いだった。全員が大首領黒幕の命令を無視した結果になる。
「は……?」
理解不能と言った顔つきだ。大首領黒幕は意味不明過ぎて声が出ない。
「アイツら……何で死んだ?」
徐々に自分の肩に恐怖が襲って来る。強敵と戦う緊張感ではない。圧倒的強者と戦う絶望感でもない。意味不明、理解不能、こんな異常現象は身に覚えがない。分からないという恐怖。整合性がないという恐怖。目の前が真っ黒になる感覚。
次の瞬間に指令室のドアが吹き飛んだ。何かがぶつかった。投擲された物体の正体は……バスターボーンアーミー。頭が剥げたサイボーグのような容姿で、背丈が高く筋肉質のような造形だ。人間の形をした鉄の塊であり、偉大なる悪の大幹部の一人であった。それなのに、あっさりと敗北してしまっている。アンノウンの目の前で、何も物を言わずに砂になって消えた。
どんな攻防があったのか、全く分からないが、一方的な戦いだったのは察しが付く。
煙の先に……あの女が楽しそうな顔をして、腕に津守都丸を抱えていた。
「殺しに来たぜ。アンノウン」




