怪鳥
狂喜乱舞。悪鬼羅刹。血走った目が心をざわつかせる。
「エネルギー充填完了。さぁ、大爆発だぜ!」
津守都丸は口を大きく開けて、驚愕の顔を浮かべていた。これ以上にないくらいの阿保面。真横でブクブクと太っていく怪鳥を、ニヤニヤしながら見ている。目の前に繰り広げられる気色悪い光景に言葉を失った。もうどういう感情になればいいかも分からない。
「さぁーてと」
その怪鳥を片腕で掴み上げると、大きく腕を振って空中に滞在する戦艦に向けて投げ捨てた。薬袋的の腕は細くて身体は小さい。それなのに、会長は前方にクルクルと回転しながら目標を目掛けて飛んでいく。自立飛行出来ない鳥が、ただの斜方投射で空へ舞う。
が、簡単に迎撃されてしまった。戦艦の砲台から悪霊大砲が放たれる。折角、妖力を集めた爆弾は簡単に撃ち落とされた。空中で花火のように散り逝く。
「なっ!」
「いいね! そう来なくちゃ面白くないぜ!」
臆さない、動揺しない。想定内だった訳じゃないんだろう。余裕の笑みではない。ただただ、戦いを楽しんでいる子供の顔。
次の瞬間に津守都丸を片腕で抱きかかえると、空中へと歩き出した。さも当然の如く重力を無視する。何が起こっているのか皆目見当が付かない津守都丸は、未だに阿保面で目を丸くしている。自分の身長を超える高さまで昇っても、抵抗しない。あまりの予想外に言葉を失っている。というより、思考が追い付かない。
「え? え? え?」
「楽しいねぇ。楽しいねぇ」
成層圏までヒトっ飛び。妖力を媒介として空へと舞い上がる。重力を無視しているのではない。もし、そんな能力を発揮したら、身体が爆発四散するだろう。そうならないのは、空気中に漂う風を集めて、上昇気流を巻き起こす。その暴風に身を任せているだけだ。
「風力発電だよ。水車や風車の概念と同じさ。突風で風車を回して電気を生み出す。私はその逆をしている。エネルギーを逆噴射して、風を巻き起こしている……なんちゃって」
温かい空気は上に行く。冷たい空気は下に行く。それを自然法則を無視するレベルで巻き起こしている。その竜巻に引っ張られて、周囲の物体が巻き起こる。怪鳥が食べ残した戦闘員ネバットの死体が、血溜まりを噴出しながら空へ浮かぶ。
目指すは黒船。大首領:黒幕の元へ。
「あの……あの……」
「今からあの戦艦に特攻して、中にいる百鬼を皆殺しにする」
「いえ、何で僕を……」
「自分で考えろよ。お前にはそれが出来るはずだ」
「えぇ……」
この世界に英雄はいる。百鬼将、武雷電がいる。しかし、その英雄が到着する前に、もっと最悪の悪鬼羅刹が戦艦へ乗り込んでしまった。誰かを守る為の戦いではない。日曜朝のテンションではない。勧善懲悪など微塵もない、純然たる殺し合いの幕開けだ。




