幕臣
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「わはは。楽しい楽しい殺戮劇の始まりだぁ。皆殺しパーティだぁ!」
「あの……え?」
意味は全く分からないのだが、自分のことを滋賀栄助と名乗る薬袋的は、愉しげに絶叫を続けていた。その姿を津守都丸と入れ替わった絵之木実松が唖然とした阿保面で見ている。彼は江戸幕府に仕える幕臣である。
幕府の長である征夷大将軍を直接の主君として仕える武士であり、その正体は秘密裏に、陰陽師機関へ資金を横流しする隠密業務を仰せ付かる者。今回の事件を受けて馳せ参じた武士の一人、という設定。本当は陰陽師としての仕事をしにきた。陰陽師機関は江戸にも存在しているので、幕臣が出向く事態など決して有り得ないのだが。
怪鳥は三匹いる。その二匹目が戦闘員ネバットを食い散らかす。頭から銜えては丸呑みにしていく。身体はみるみる大きくなる。腹が出っ張ってきて、胸が張っていく。まるで巨大な球体だ。短い前足はもう見えなくなっていく。
「あの……助けてくれるんですか?」
「いいね! それもいいね。面白そうだ」
およそ正義の味方の顔つきではない。狂乱の殺人鬼とも違う。買って貰った玩具を地面に叩き付けて破壊する三歳児の顔だ。邪悪な笑みではない、狂っている訳でも無い、心から楽しんでいる無邪気な顔つき。真っ白い歯を見せて、目を見開いている。
「でも、私の狙いは……あの怪人だらけの空中戦艦にいる大首領様だ。アイツの実力はそこそこだからな。百鬼将の一歩手前といった感じ。まあ、ノープランで勝てる相手じゃないのさ」
そう言いつつも、よろよろと歩いてきたネバットの顔面を握って電気エネルギーに変換する。そのまま周囲にいた何匹かを感電死させた。ネバットはあっさりと死体になる。その死体を怪鳥が貪る。
「ネバットの能力は百鬼の中では最強かもしれない。無限コンティニュー、永延の再生、人海戦術。ある意味、本当に最強の能力を有している。あの伊代羅刹龍よりも、長期戦に向いている奴かもしれない」
そこを逆手に取る。その無限に増える百鬼を、妖力の媒介として吸収する。そして、怪鳥を爆破する。
「私が妖力の動力源として期待していた百鬼は何匹かいる。その一匹が『百鬼将:伊代羅刹龍』。屍霊。そして最後に……戦闘員ネバット」
名無戦乙女の戦う順番が極めて正しい。自分の能力を最も効率よく使える相手を選らんでいる。
「で、その怪鳥は……」
「丸々と太らせた若鶏は、フライドチキンにして食すものだろう」
「食べるんですか!」
「それもいいね! だが、冗談だ。本当は……この辺一帯を灰燼と化すに決まっているだろうが!」




