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猛虎

 猛虎は前足を揃えて体制を低くする。後ろ脚に力を溜めている。突撃の構えだ。


 「その構え。思い出した!」


 「そんな理由で思い出すな!」


 この光景を遠くで見ていた武雷電は考えていた。機械仕掛けの虎に勝ち目はないだろう。素早い動きと武装によって最初は優位に戦局を進めていたが、それもこの辺で打ち止めだろう。持っている妖力の量が違う。武雷電はゆっくりを背を向けた。


 「薬袋的。やはり凄まじい妖力の大きさだ。生前と一切変わらないな」


 薬袋的は無条件で悪霊を引き寄せる。生まれついての能力だ。知らぬ間の内に寄って来る。このタイムスリップが成功した理由も、薬袋的の悪霊を収集する能力があってこそだ。そうやって過去を超えるエネルギーを補填した。


 それはこの時代においても同じこと。百鬼がこの時代に現れてから、百鬼は一匹も現れていない。陰陽師が百鬼と戦っているから、気が付きにくいが。そう……滋賀栄助が暴神立を振るって電撃を生み出す度にエネルギーを必要とする。暗雲が勝手に立ち込めて、上昇気流が巻き起こり、雷鳴が鳴り響く。


 勿論、これはその場に生息していた悪霊の魂をエネルギーとして媒介にしているから。これが唯一百鬼を殺せる刀、『天和御魂あまのみぎたま』の底力なのだ。悪霊を昇華させる妖刀。陰陽師が持つどんな武器より悪霊を成仏させる力を持ち、それでいて悪霊と波長の合わない陰陽師には使いこなせない妖刀である。


 これは昭和の時代でも変わらなかった。


 「『御雷みかづち』」


 機械仕掛けの虎は最後の抵抗と言わんばかりに、火花を巻き散らして特攻した。勇ましく雄叫びをあげて、眼光を深紅に輝かせ、鋼鉄の身体を大きく振るい、襲い掛かる。滋賀栄助の頭上から牙で噛み付くように。爪で引っ掻くように。


 次の瞬間に猛虎の胴体は一刀両断された。切ったのは闇荒御魂やみあらみたま。偽神牛鬼から奪い取った対の妖刀。この双剣は電動している。御雷みかづちは分け合うことが出来る。そして、闇荒御魂には特殊な能力はない。単純に吸収した妖力を……殺傷能力に変換する。剣の速度を上げて、切っ先の鋭さを増し、両断する威力を高める。妖力を吸収すればするほど強くなる。電撃を放出する天和御魂に対して、吸収するのが闇荒御魂。


 「そうか。虎になったのか。お前はあれだけ惨めな人間だったのに。虎なんて似ても似つかなかったのに。いっそ兎になれば納得感があった」


 「あぁ、皮肉な野郎だろう。この小説の作者……」


 そう言って機械仕掛けの虎も灰になって消える。この小説の作者、百鬼閻魔帳の著者であり、百物語の生みの親。


 「ソイツの顔は……上手く思い出せねぇ」


 両手を大きく広げて頭部を触る。滋賀栄助はわしゃわしゃと掻きむしって空を見上げた。

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