充填
戦局が動いたのは滋賀栄助の刀が怪しく光り出した瞬間からだった。エネルギー充填完了。刀から電撃が迸る。相手は機械の獣だ。その動力源である電気を一撃毎に奪い、自分の力として使役する。長期戦になればなるほど有利になっていく。
「呆れたものだな」
この光景を黙って見ている人間がいた。いや、正確には人間ではないのだが。百鬼将、武雷電。昭和の時代において正義の味方であり、特撮番組の主人公である。その演者は当時の王御所俳優である。その装甲を纏った姿はクワガタ虫のようであり、蒼い色に染まっている。
「我々はこんな荒唐無稽な茶番劇に参列させられていたのか。何がレベル3計画だ。薬袋纐纈め。アイツは本当に性格が悪い。我々はアイツを出し抜いてなどいなかった。我々は今もなお奴の手のひらの上で、踊り狂わされているのか」
機械仕掛けの獅子は旋回するドリルを振り回す。無我夢中に無鉄砲に。暴神立を下段の構えで持ち、後方に下がりながらタイミングを見極める。滋賀栄助は刀を持ち上げると、奴の両腕を切り落とした。しかし、切っ先で落としたのではない。迸る電撃で切り落としたのだ。
「御雷か」
武器を落とされたことで驚愕する獅子の首先を狙って、闇荒御魂を居合切りする。流れるような剣捌きだった。獅子は膝から地面に崩れ落ちた。そして、砂のような霧となって消える。ここまで生き残ったのにと言わんばかりに、獅子は手を長く伸ばして……消えた。
「剣術は苦手じゃなかったのだ。随分と達人みたいな動きじゃないか」
滋賀栄助の動きが以前より格段によくなっている。それを機械仕掛けの虎が言及した。低く唸り声をあげる。滋賀栄助は詰まらなそうに顎を上げて答えた。
「別に。親父の剣術を使いたくなかっただけさ。あの完成された剣術を振るうのが嫌だった。自分が滋賀栄助だと思いたかったから」
以前の滋賀栄助は剣術には長けていない。御淑やかなお嬢様だった。弱々しい彼女は男らしい名前をつけられて、剣術の指導を受けたものの、何も習得出来なかった。しかし、今の彼女は滋賀栄助ではなく……薬袋的だ。少なくとも精神は。
「だから、滋賀栄助には出来なくても、薬袋的には剣術を使いこなせたという訳さ。この『生易死難』。この身体に受け継がれてきた力を、遺憾なく発揮してみただけなのだ」
嫌そうな顔をしている。本当はこんな力に頼りたくない。そう言いたげな表情だ。不本意ながらも勝ちに拘っている姿。
「今までは自分の脳の記憶で、滋賀栄助は剣術がド下手と錯覚されていたが、あの実家に帰ってみて残念ながらそうではないことに気づかされた」




