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賛美

 ★


 滋賀栄助と絵之木実松は現在も戦っていた。あの滋賀栄助の実家を離れたあと、あの場所が崩壊したという情報を得る前から目を血走らせて戦っていた。場所は信濃しなの。東道山に属する今の長野県にあたる。


 相手は『機械仕掛けの虎』と『機械仕掛けの獅子』である。以前に戦ったカラクリシリーズの二匹だ。虎は大きさが小さいものの、未来の技術を応用した術式を使って来る。獅子は両腕に旋回する突起物を持ち、二足歩行で駆け回る。激しく電動する二匹の獣。


 そもそも奴等の狙いは滋賀栄助の持つ闇荒御魂と天和御魂である。それさえあれば、百鬼将に勝てる可能性くらいは伺える。自分たちで戦える武器が欲しかった。


 機械仕掛けの虎はその紫色の毛並みを逆立たせ、獣らしく飛び跳ねる。目から光線を放ち、背中の砲台から弾丸を射出し、口から溶解液を吐く。爪は鋼鉄、皮膚は鎧、その見た目と反して奴が空中から着地する度に地面に亀裂が奔る。それでいて、機動力に欠ける獅子は足で纏いだ。人間らしい動きが仇になっている。


 「貴様を殺して、その武器を奪ってやる!」


 鋭い爪が滋賀栄助に襲い掛かる。それを暴神立で跳ねのける。何度も何度も激しく撃ち合い、火花を散らす。電気をエネルギーにして動く機械と、電撃を纏った剣を振るう少女。その姿を物影の奥から見守っていた。それだけである。ここ数月戦っているのだが、絵之木実松は戦いに参加しない。


 本当にただ物陰から見ているだけの人。


 津守都丸と同様に彼も何も覚えていない。本当は戦えない人材じゃない。本当は彼の方が津守都丸だ。本当はこの時代の陰陽師の中でも、両手の指に数えられるくらいには最強だった。彼は責務から逃げ出した。自分の大切な使命を投げ捨てた。職務放棄以外の何物でもない。


 それでいて、彼はまだ生きている。本当は走り出せば、それなりに戦えるのに、役に立てるのに、その気になれば式神を作ることだって出来た。彼は……弱くない。だが、彼は陰陽師としての自分を『縁を切っている』。自ら望んで弱くなった。弱さを選んだ。


 歴史を変えた。転車台を動かした。世界を並列させた。最初のドミノを蹴飛ばした。


 主人公などではない。ただの負け犬で弱虫で怠慢な人任せ野郎。何の意味もなく物影に隠れる男。一連の流れを自己で理解すらしていない。


 「頑張れ! 頑張れ! 頑張れ!」


 心からの応援。真心込めての応援。愛する人への賛美の気持ち。まさに吐き気がするくらい気色の悪い醜態だ。結論、そういった人種だったのだ。徹頭徹尾、最後の最後まで、一事が万事、人任せ。


 ひ・と・ま・か・せ。

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