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梯子

 「妖力が感じ取れる。悪鬼だとは思うけど」


 「世に言われる落ち武者みたいな妖怪じゃないよね。鎧を着た幽霊なのではなく、ただの脱ぎ捨てられた殻が残っているだけだよね」


 確かにこの前の血染蜘蛛のように死体が妖怪になっていない。ただ動かない鎧が捨てられているだけ。何かが潜んでいるかもしれないが、この間合いから探ってみるが、ほぼ空洞にしかみえない。やはり気になるのは不自然に付着している紫色の液体。


 「あれなに?」


 遂に滋賀栄助も重い腰をあげた。立ち上がって妖刀をいつでも抜ける体制を維持している。足を上下に開き、腰を少し屈め、呼吸を整えている。場所としては最悪だ。時の鐘は空中で空から地上を見張るもの。鐘以外に何もものがなく、そしてスペースが狭い。ここで派手な戦闘は厳しい。奴は不死身なのでこの高さから落ちても復活するだけだろうが、こっちは間違いなく転落死だ。


 「いつのまに侵入しやがった。梯子を登れる握力があるようには思えないが」


 「空中から浮遊してきたとか、どこからか転送されてきたとか」


 「そんなお話があったか? 佰物語に」


 ない。かなり読み込んだので分かる。妖怪の基本スタンスは待ち伏せだ。唐突に奇襲をする妖怪ならば、その特異性から話題に思うはず。


 先程から極めて真剣に注意を払っているのだが、この汚らしい鎧は何もしてこない。無駄な時間がいくつ過ぎただろう。迂闊に攻撃すると奴の術中にはまることになる。痺れを切らしてはしけない。ここは我慢だ。なんて思うことすら馬鹿げていると思うほど、本当に何も起きない。


 「交戦するか、逃げるか」


 「逃げられないだろ。敵を目の前にして梯子を渡って下に降りるなんて俺はごめんだ」


 「私だって嫌ですよ」


 だったら戦うのか。この狭い足場で。私という足でまといを抱えながら。相手がどんな能力を持っているかも分からないのに。


 「……いや、戦いはもう既に始まっているのかもな」


 ★


 幼少の頃に沼の泥濘ぬかるみにはまったことがある。気持ち悪かった。大した広さでもなかったので、靴が埋もれた程度の被害で済んだ。そこから『底なし沼』などという現象を調べた経験がある。流砂の比重はかなり高く人間が浮くことができるのが通常である。通常、水の比重よりもかなり高い。水分を多量に含んだ流砂であっても、水の比重を下回ることはない。つまり、立っている限りは、流砂に呑み込まれて没してしまうことは少ない。


 だが、振動を加えると流動性が増す。すなわち、もがけばもがく程沈み込んで行く。


 「有り得ない……なんだよ、この能力は!」


 「木材の床に引き込まれる!」

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