分身
★
遂に巨大戦艦から戦闘員ネバットが出撃してきた。日曜の朝八時に出てきそうな戦闘員が無数の軍然として日本の地に降り立つ。浦賀が比較的発達した地である。建物が多く並び、海岸近くの平地に市街地が形成されている。
もう殆どの人々がいなくなっているが、まだ腕っぷしの立つ剣士が多く待ち構えていた。ネバットは一切の武器を持たない。丸腰の全身タイツが、ヘルメットを被りかけてくる。剣士達は恐れつつも刀を振る。その度にネバット達はあっさりと切り捨てられ、地面に血塗れて伏せる。瞬殺である。
ネバットは弱々しい。というか、弱い。全くを持って強くない。コイツの能力は別にある。黒船からの無限生産。いわば『倒すことが出来ない』という能力。何匹葬ろうとも、何倍の軍兵が押し寄せてくる。同じ人間が何人もいる。分身の術と言っても過言ではない。
人海戦術。如何に一匹一匹が弱々しかろうと、一人に対して複数で挑めば……。
「ただ増殖する。それが戦闘員ネバットの能力だ。特殊な能力など持たずとも、殺される覚悟で突進するだけで……勝負に勝てる。無限コンティニュー、無限の挑戦権。これこそ最強なんだ」
戦闘員が黒船から墜落してくる。剣士達は……ネバットの死体に足を取られて上手く動けない。足場を確保できない。地面は血で濡れて摩擦係数が減っている。死体の山を踏む度に罪悪感が襲って来る。この世の誰が死体の山での戦闘など経験したことがあるだろうか。ここまでくると……何も武器を持っていない奴の方が強い。柔軟に動ける。
死を恐れない。牽制を警戒しない。決断を迷わない。ただの戦闘員というだけで、あらゆる人間の弱さのあらゆる分野を無効化出来る。狂喜乱舞、悪鬼螺旋、この世の地獄。百鬼の特性を最も準じるように創られた怪物。
屍精という百鬼も似たような能力を持っていた。あれは屍を自分の分身にする能力を持っていた。富士の樹海にて数が増えた理由は、あの場が自殺の名所であったからに他ならない。奴は死体を自分の分身に変える為にあの場にいた。
そして、薬袋的の作戦により、伊代羅刹龍を殺す為の爆弾のエネルギーとして、怪鳥に喰われた百鬼だ。その能力を動力源に変換されるのに利用された。しかし、ネバットにはそんな事は起きない。奴は……本当に無限の生命体だ。毎週、毎週、複数体殺されても、次の週には何事も無かったかのように生き返る。何事も無かったかのように。
そして、一般人に迷惑はかけられても、重要な正義の味方は倒せない。
「さぁ、お前が大嫌いな『無関係な人間を殺す』ことだ。掛かってこいよ、武雷電」
大首領アンノウンは大袈裟に笑う。元の設定から悪党の権化。




