艦船
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浦賀に蒸気船が二隻を含む四隻の艦船が日本へ上陸した。マシューペリーが日本に来航し開国を迫った事件である。この事件から以降の江戸時代を幕末と呼び、日本という国が生まれ変わるキッカケとなった。未知の勢力が介入してくること。否が応でも変化を余儀なくされること。これが社会の変化である。
しかし、今回の物語はそうはならない。
「進軍だ。世界を破壊するぞ! ネバットっ!」
「「「イエス!」」」
数え切れないほどの無数の戦闘員。通称ネバット。全身タイツの戦闘員たち。そして、それを指揮するのは、真っ黒な軍服に身を包んだ大男。顔は亡霊のように真っ青で血色の薄い顔。肩には金箔の獅子のような造形の肩パットをしている。大首領黒幕。正義の味方武雷電の正式な悪役にして、宿敵にして、因縁の相手である。
そして悪の大幹部には真っ黒なアーマーを身に着けた長身の男と、剥げたサイボーグの人間がいる。二人とも武雷電と戦いを繰り広げた仲間であり、アンノウンの部下達だ。
「殺してやるぞ! 武雷電! 今度こそなぁ」
既に歴史は狂っている。百鬼の影響で沢山の人が死んでいる。地形は大きく変わっている。戦いの舞台となった場所は、歴史の中でも重要だった場所も多い。そこが悉く破壊されているのだ。この浦賀とて外国から開国を迫る重要な場所だ。しかし……。アンノウンの登場により、歴史は大きく食い違う。
ペリー来航の少し前に、この百鬼達が空飛ぶ戦艦を引っ提げて浦賀に到着してしまったのだ。陰陽師の守秘義務などお構いなしである。悪霊の不祥事は陰陽師が人々の記憶を抹消することで解決するのだが、もうこの時代にいる陰陽師の数は少なく、この光景を見た一般人が多すぎる。
「聞こえるか愚民共。私の名前はアンノウン。貴様等の支配者だ。この国はこの時より、我が支柱の土地となる。貴様らはただの私の為に働く動力源となるのだ。恐れおののくがいい」
現代人ならばこの言葉を言われても笑ってしまうのだろうが、この時代の人間は……適応できない。不思議がる者が殆どだ。言葉の意味が分からないというのが現実であり、どんなお決まりの台詞でも理解不能となる。
「この私が恐ろしいか!」
空中に浮かぶ戦艦に対し、気持ちが沸いてこない。マイクを使って全方位に発言を拡散している為に、言葉は聞こえるのだが。それだけである。恐ろしいかと言われても。
「恐ろしければ……呼んでくるがいい。あの正義の味方! 百鬼将、武雷電を!」
と、言った所でこの地は日本であり、今は日曜朝ではないのだ。正義の味方の固有名詞を言われても、それが人物名かどうかも分からない。来るのは幕府のお役人だけである。刀を持って、提灯を持って、立派な袴を身に着けて、男たちが浦賀の砂浜に立ち並ぶ。『成敗』だの『切り捨て御免』など『お命頂戴』など、それっぽい言葉が並ぶ。
「よろしい。戦争をするならば是非もない。ネバット! 悪霊大砲だっ!」




