爆弾
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「こんにちわ。お嬢ちゃん」
「おう。誰だ、おっさん」
「私はね。この町の人の幸せにする為に働いている人だよ」
「え、宗教家か何かなのか? どこの教祖様だ」
「いやいや、言い方が簡単過ぎたね。この町の人が平和で安全に働けるように、規則や条例を作っている人なんだ」
「皆、お前の決めたルールで戦わされているんだな」
「私はね。お金の管理もしているんだ。皆が幸せになる為に、流通の仲介役をしているんだよ。もっともっと働いて稼いで貰う為にね」
「そんなにお金が好きなのか」
「色んな困っている人を助ける活動もしているんだ。本当に死んでしまいそうな人を救っているんだよ」
「なんか一世代前の漫画の主人公みたいなこと言うんだな。あんまりイメージ湧かないや」
「ねぇ。いくわちゃん。どこを見ているの?」
「どこって? オッサンの肩の上だけれど」
「肩の上って。君は君のお爺様より怖いなぁ。何が見えるんだい」
「お前を殺したいほど恨んでいる連中の顔」
★
「あぁ……あぁ……………あががあ」
「思い出した? 思い出した? 思い出した?」
名も無き戦乙女が怪鳥を片手で掴み上げた。そのまま狂気の顔を浮かべて丸々と太った鳥を空中へ放り投げる。伊代羅刹龍は動けなかった。あの時に出会ったばかりの恐怖を思い出していた。彼女は彼の本性を一瞬で見抜いた。他人の霊の数で善人悪人を判断する人間だったからだ。
「助けてくれ! 頼むから助けてくれ!」
戦乙女が集めてきた百鬼の数だけでは妖力の量が足りない。伊代羅刹龍が竜に変貌させた百鬼をエネルギーとして媒介にしたいと数が足りなかった。そして、百鬼将を殺せる程の莫大なエネルギーが球体となって完成した。妖力爆弾。
「私はお前達が思っている程の悪党ではない。政治家たるもの救った命だってある。私だって苦しい思いをしていた時期はあった。何も殺さなくてもいいじゃないか。お前たちに支配者の苦しみが分かるか? くるし……助けて! 助けてくれ!」
何の意味も無い命乞いだ。悪徳政治家は思い出した。自分が転生した瞬間を。自分を恨んでいた人間の悪霊を媒介にして、この時代に飛んだ瞬間を。自分が白竜に変身した瞬間を。そんな自分の身体は……自分の物ではなかった。カッコいいドラゴンじゃない。ただの悪霊に呪われた……無様な人間だった。
「死にたくない……う、うわぁぁぁぁぁぁぁ」
空中で怪鳥が大爆発を起こした。富士の樹海の天空に爆発音が鳴り響く。鳴り響く轟音。いつまでも続く爆発音。汚い真っ黒な煙が立ち込めて、紅葉を真っ黒に染める。
「良かったね。これで一緒になれたね」




