樹海
有象無象の竜が伊代羅刹龍の命令にて富士の樹海に突進する。多くの竜が武器を持ち、人以上の知能を持つ精鋭たちだ。それらの竜が一斉投射される。咆哮を轟かせ、轟音を巻き散らし、雄叫びをあげる。百鬼総勢の半分に等しい数だ。
「戦いとは量だ。質など人間である限り変わらない。数の暴力こそが社会を動かす唯一の原動力だ。多人数からの投票で政治家が選ばれるように……戦いも数の多さが勝利を選ぶ!」
伊代羅刹龍に作戦も何もない。無限の怪獣を徘徊させ、暴れ回らせ、草の根を分けて敵を発見する。真正面からのシンプルな総攻撃。そんな無茶苦茶な人海戦術を……名も無き乙女は読み切っていた。
「屍精は物を腐らせる悪臭を放つ死体。更に身体の巨大化と質量を増加させる能力を持つ。この怪鳥のサイズが小さくならなかった理由は、コイツが原因だろうな」
悪臭を話す怪鳥が周囲の竜を食い散らかしていく。古今東西の武器が勝手に踊り出し竜の首を刎ねる。精霊魔剣士の能力だ。怪鳥は首が切れて飛んでしまった龍の死体を加えて口の中に放り込んでいく。空を飛べない巨大な鳥。老婆の顔が怪しく笑う。
ドードー、モア、ディアトリマ。過去の地球で絶滅した生物によく酷似している。過去の地球を支配した飛べない巨大な鳥たち。
「ええい! 何をしている!」
伊代羅刹龍が痺れを切らした。苛立ちを隠しきれない。今度は竜たちが同士討ちを始めた。まるで怪鳥を守らんとするように。輪になって互いの首を狙う。
「水霊の魅了能力だ……」
朽ちていった者から、疲れ切った者から、ゆっくりと怪鳥が喰らい付く。伊代羅刹龍はようやくここで、この化け物が合成獣であり多くの百鬼の能力を有していることを理解する。様々な伝承を受け継いでる可能性の獣。いや、物語の集合体。
「いや……破綻する……上手くいくはずがない」
「その通りだよ。コイツは私が用意した爆弾だ」
伊代羅刹龍の耳に少女の声が聞こえる。名も無き戦乙女の声が。多くの能力を有していることなど、ただのおまけだ。本当の狙いはそこではない。伊代羅刹龍は自身に訪れている恐怖から、物事を冷静に判断していた。このままでは殺されると。
「死体喰い……まさか妖力を吸収している」
「その通りだ。お前はここで死ぬんだよ。この世界へダイブする際には妖力のエネルギーが必要だ。それを確保する為に、薬袋病院に住み着いていた悪霊を利用した。被検体には他人を多く殺した人間が選ばれた……」
妖力とは感情の爆発だ。人間の感情というものは、この世においてエネルギーに例えられる。波長があり、熱であり、電気であり、音であり、光であり、自然であり、化学であると。
「では? この時代に搔き集めた妖力で爆発を起こすとどうなるでしょうか?」




