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政治

 伊代羅刹龍は政治家であった。随分と悪行に手を出してきた悪徳政治家で、薬袋纐纈とは故知の間柄であった。互いに夢を語り、酒を組み交わした仲である。性格が悪く口達者で傲慢な伊代羅刹龍と、ただ笑っているだけの薬袋纐纈は相性が良かった。プライドの塊である伊代羅刹龍の、心の醜さが全面的に出ている部分が、薬袋纐纈のセンスに合ったらしい。


 庶民の生活を理解しようともしない。討論では偉そうな言葉を語り、生まれ持った権力で他人を捻じ伏せていく。頭が良かった訳でもなく、知恵が働いた訳でも無い。生まれた時から政治家の家系で御曹司だった。褒めて煽てられて育った。そして、周りのお膳立ての影響で勝ち続けた。生まれながらにして勝ち組の男。


 彼に殺された人間も多い。情報隠蔽の為に秘書は自殺した。裏の稼業をする人間との繋がりを揉み消す為に、その組織の下っ端が海に沈められた。自分を支持する人間を優遇し、自分を慕わない人間を淘汰する。人一倍恨まれていた悪徳政治家。そんな大量の悪霊と共に……江戸時代までやって来た。


 その姿は白竜となった。大太刀を手に入れて、自分の部下を生み出す能力まで手に入れた。特に努力をすることなく最高幹部の一人となり、他人から一目置かれる存在である。


 「出て来い……貴様らがそこにいるのは分かっている……」


 総勢五十匹ほどの竜が並ぶ。古今東西、世界中の伝説の竜のオマージュが空を飛んでいる。皮膚を甲殻で覆われているもの、岩石の姿のもの、未来の世界で戦争で利用された武器を持つ軍勢。その全てが伊代羅刹龍の配下だ。


 紛れもなく、この百鬼同士のバトルロワイアルで最も優勝に近い百鬼。それが伊代羅刹龍である。


 「来ると思っていたぞ。悪徳政治家め」


 空中を徘徊している伊代羅刹龍を見上げる名も無き戦乙女。もとい薬袋的。彼女は彼の事をよく覚えている。病院の中に彼が来た時に、よく自分の祖父と話をしていたからだ。死にそうになったら助けてくれ。病気になったら痛みを取り払った上で助けてくれ。そんな見っとも無い、傍から聞いたら煩わしい言葉を本気で訴えていた。勿論、薬袋纐纈は笑いながら首を縦に振っていた。


 我儘な子供のまま。願えば全ての事象が叶うと思っている。今回の百鬼大戦だって、自分が勝つと信じて疑わなかった。他の百鬼よりも明らかに超絶優遇された能力を有しているのだから。獄面鎧王が提案してきた「まずは滋賀栄助を倒してから」という案も鼻で笑って無視していた。心の中で舌を出して馬鹿にしていた。


 「この樹海に何匹が逃げ込んでいるはずだ。殺さずに捉えろ。全ての百鬼は我が配下だ」


 自らの手で絶命させることによって、配下を増やそうと画策していた。そうやって半分近くの百鬼を自分の物にしたのだから。

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