鶏冠
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死体が木の枝に括り付けられている。富士の樹海は歴史的な自殺の名所である。呪われた場所としても知られ、危険地帯としても知られる。この場に住まう妖怪はダイタラボッチ。富士山だけではなく、日本各地に生息する巨人だ。以前にも紹介した。国造りの伝承、巨人信仰である。この世界の山や湖沼を作ったのが巨人とされる。鬼の原型にして妖怪の起源ともいえる。
しかし、この地にはもういない。原生生物を脅かす外来種が登場した。
巨人伝説は世界中に存在する。日本の地だけではなく世界中に。以前に登場した独眼巨人はギリシア神話に基づいた妖怪だった。そして今回もそれに近い。以前の銀色の巨人と違って今度は青銅の色をしている。鶏冠の仮面を頭から被り佇む。巨漢な身体をしており、全身は錆びた青色に染まっている。今度は両目があり、巨大な鎧を身にまとう。
そして、その背後には青銅巨人の大きさを下回る大きさの屍精が群がる。死体共の怨念を吸い上げている。これは別々の百鬼である。加えて巨大な大剣を持つ白髪の剣士。耳が長く長三角形になっている。歯には牙があり、目は避けるほど細い。
そして、天空には無数の怪鳥が並び立つ。上半身は女麗しい女性の身体なのだが、下半身は派手な猛禽類だ。色鮮やかな羽毛に覆われている。口紅を塗っている唇だけが真っ赤であり、それ以外の肌は真っ白だ。更に上空、樹木の上には橙色に輝く翼の造形をした炎が燃える。二枚の翼と一対の前足だけ。ただの炎の塊が空を泳いでいた。
地上にはあと二匹。水辺には桃色の服を着た赤ん坊。薄気味悪く笑う。そして……鋼の鎧を纏う凛とした表情の娘。威厳のある騎士のような立ち振る舞いをしている。
意図があってこの場に百鬼が集まっていた。彼らには共通点がある。従うべき百鬼将がいないということ。誰の命を受けている訳でも無い。いわば捨てられた……悪霊として進化の機会が無い百鬼。
青銅巨人。屍精。精霊魔剣士。怪鳥。天翔炎。赤子水霊。そして、名も無き戦乙女。この七体が一同に会したことには理由がある。百鬼将が残りの百鬼を捨て始めたのだ。最強の悪霊になるべく、もう有象無象は用済みという訳である。
以前に百鬼が全国に大量発生したのは、百鬼将の作戦ではない。全ての百鬼が新たな世界に進める訳ではない。いわば切り捨てる為。滋賀栄助に人数を減らして貰う為だ。百鬼同士は味方じゃない。そう思っている百鬼もいるが大多数は思っていない。百鬼将である伊代羅刹龍は残る百鬼を捉えては自らの能力で無理やりに龍の姿へと変貌させ、自らの部下としている。
この場が妖気を吸い上げるのに効果的だったこと。怪鳥ハーピーは死体を食い漁ることで知られる。残りの連中もそう言った逸話がある者が多い。いや、伊予羅刹龍と対峙した時に応戦できる人数と地形的優位が欲しい。
そして、この場を取り仕切ったのは……名も無き戦乙女である。その姿……薬袋的と同じ。




