表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
14/263

近江

 百鬼と呼ばれる悪鬼を知った。それはどこかの誰かが書き記した妖怪の物語である。それをとある女から預かり読み老けていた。かなりの分厚さである。すべて読み切るのに三日もかかった。伊達に百話も掲載されていない。一話一話に違う登場人物が複数出てきて、物語もつながっておらず、怪異の出現場所や時間もまるで統一性がない。


 だが、やはり人間が創ったであろうと思われる節はある。様々な場所が描かれ、現実で使用する物品が出てくる。人が死なない物語も存在すれば、どんな妖怪なのかしっかり描かれておらず、特徴だけが描かれているのも多い。そして、すべての物語が決着していない。意味もわからないまま、続きが気になる終わり方をしている。


 「おう。絵之木の旦那。今日も朝から読み物かい?」


 「ええ。おはようございます」


 この江戸という町では良くも悪くも陰陽師を特別扱いされない。京では陰陽師とは上級役職だった。農民も商人も歩くだけで恭しく頭を下げられていた。しかし、この江戸では夜の帰り道に酔っ払いが突然に肩を組んでくるしまつ。迫害を受けている訳ではない、受け入れられていない訳でもない。しかし、ここは本当に新鮮な場所だ。


 「あれから一週間か」


 百鬼は姿を現さない。滋賀栄助の言うことが正しいならば、残りの百鬼は98体。それがこの江戸に潜伏しているはずなのだが。よほど隠れ鬼が得意な連中らしい。即座に悪事を働こうとはしないみたいだ。佰物語を何度も読み返して研鑽を高めるしかない。


 「そういえば、滋賀栄助は何度も百鬼と相対していると言っていたな。勝手に居場所を特定していたりして」


 彼女とは血染蜘蛛と戦った日から毎日顔を合わせている。どこの馬の骨か分からないと信用できない。彼女は全くをもって素性不明の人間などではなかった。貴族生まれのお嬢様で、武家の娘。近江の出身で奉行所に配属されている武士らしい。女性が武士を名乗るなど有り得ない話なのだが、何故か彼女の場合はそれがまかり通っている。どんな裏事情があるのやら。


 さらに気になる点は彼女は全くを持って陰陽師や呪術とは縁がないということである。彼女は陰陽師でもなければ、中継役を担っている訳でもない。悪い言い方をするならば部外者なのだ。この本をどうやって手に入れて、百鬼と戦う決心がついた理由など、あらゆる事が不明なままである。


 私はいま、時の鐘に来ている。庶民に親しまれている時計台のことである。広い視野から悪鬼を観察するためだ。そこから見える景色には、めし屋、薬屋、紙屋、お茶屋、畳店、魚屋など、さまざまな商家が軒を連ねる。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ