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蚯蚓

 氷の息を吐く気色の悪い笑みを浮かべる蝙蝠と熱風を巻き散らす憤怒を浮かべる蝙蝠。その二匹が滋賀栄助と絵之木実松を取り囲む。氷の結界で覆い尽くし、熱風で追い詰めていく。皮膚の全てが火傷するようだ。


 「死ねよ、腹が立つ。正しさに溢れた老害がぁ! 過去の遺物め! 死んで俺たちをもっと強い悪鬼に変えてくれ! もっともっと強くなるんだぁ!」


 百鬼にも妖力は存在する。それは人間の妖力とも、妖怪の妖力とも違う。悪霊の妖力に近い独自の物だ。独自に開発した周波数の波長。しかし、そこに乱れが生じている。逆鱗蝙蝠は勝負を焦っていた。


 「栄助さん! これ!」


 闇荒御魂を滋賀栄助に下から投げ上げた。それを左手で受け取るとすぐさま鞘から刀を抜く。地面に鞘が転がった。右手に天和右魂あまのみぎたま。左手に闇荒御魂やみあらみたま。双剣が妖力で研ぎ澄まされる。滋賀栄助には陰陽師の妖力などない。ここには……絵之木実松の妖力が込められている。


 背後に迫っていた厚い氷の壁を一刀両断した。


 「この氷、切れない強度じゃない。世界蛇や独眼巨人の方が硬かった」


 妖力を刀に乗せて氷と炎を叩き切っていく。暴神立は百鬼の全てを切る。具体的には百鬼の妖力の周波数に、唯一添い遂げられる波の形を生み出せる。そして、縦に切り裂ける。妖力以外のもので周りを固めていない事が、あっさり切り込める所以だ。


 そして、百鬼の周波数に対応した刀がもう一本。妖刀:闇荒御魂やみあらみたま


 「そっちが対となる二匹の百鬼を操作するなら、こっちは対となる双剣で勝負だ」


 「はぁ……なんだそれ」


 逆鱗蝙蝠は身体の変化に勘づいていた。身体の異変に。具合が悪い。百鬼となった瞬間から気分が良く体調万全だった。身体の異変など考えもしなかったのだが。両頬を両手で掴んで、爪で引っ掻く。蕁麻疹が出来たように蚯蚓腫れが出来る。


 『僕を覚えていますか?』


 不意に声が聞こえた。聞き馴染みのない若い青年の声。酷く落ち着いていて、いけ好かない声。その声は心の中から聞こえる。頭の中ではない。ただのポンプであるはずの心臓からだ。


 『僕ですよ。負け犬が如く逃げ回った男です』


 「お前、なんで……」


 『知りませんよ。僕にだって分かるわけないじゃないですか。でも、ここまで死ぬという絶対を乗り越えて来た貴方達ならば、そう驚くことじゃない、と思えませんか?』


 不死鳥という言葉を思い出す。死ぬ瞬間に灰の中に飛び込んで新たな命として生まれ変わる不死の生物。奴はそう名乗った。火の鳥を使う陰陽師だと。


 「……アイツは誰と喋っているんだ……」

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