特殊
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自慢気だった。まるで此方の困惑する顔を見たいという気持ち全開だった。楽しそうに、嬉しそうに、魂を鼓舞させるように、大声で言い放った。三匹の腐り切った蝙蝠。
「おい」
「どうだい! お前達、陰陽師にとって最高到達点と言わんばかりの屈辱だろう。陰陽師が陰陽師同士で戦うなど、天上天下が引っ繰り返っても有り得てはいないこと。裏切りなど陰陽師の世界では、我々が生きている時代でも、歴史上たった一回もない。本当に、一回も、ない!!!」
その通りだ。昭和の時代など知ったことではないが、とにかく有り得ない。組織同士の権力争いは絶えないが、悪霊の軍門に下るなど絶対に有り得ない話だ。そもそも悪霊は知能を持たない怪物だ。媚び従うなど意味がない。裏切りは成立しない。つまり、知能を持つ悪霊が現れたことによる、歴史の分岐点。
「この恥知らずが!」
猪飼慈雲が罵った。今、自分よりも強い陰陽師が一撃で殺されてしまった。それなのに臆せずに声を出した。陰陽師において絶対に許されない行為だ。そんな選択肢は絶対に有り得ない。
「貴様らが何時代の人間かなど知らないがな! お前たちは人間を殺す生物になったんだぞ! 先の時代では悪霊を野放しにして、今の時代では自分自身が悪霊になった。そして、人間を殺すとは……許されてなるか!」
「許される? お前の許しなんて欲しくねーよ」
炎と氷の獄風を辺り一帯に巻き散らす。滋賀栄助が痺れを知らした顔で電撃を放ち、相手の技を跳ね返す。
「俺が欲しいのは力だった。それが欲しくて陰陽師になった。なのに、奴らが俺たちにくれたのは……面白くない技術だけだ。外国との戦争になっても陰陽師はその力を発揮しなかった。有り得ないだろ。自分の大切な人が殺されているのに、本領を発揮できないなんて。それで敗戦後も体制は何一つ変わらない。馬鹿ばっかりだぜ!」
逆鱗蝙蝠が大声で叫ぶ。喉が千切れるかのように。腕を大きく上下に揺さぶって。
「変われない生き物は死ぬんだよ。俺たちは違う。変われる人間だ。生き残れる方に、生まれ変わった! 至極、当然だろうが!」
次の瞬間に逆鱗蝙蝠は後方に飛んでいく。刀の反りで跳ね飛ばしたのだ。
「誰だお前。何でお前みないな雑魚が、闇荒御魂を持っている」
「お前ら……いい加減にしろよ。日本の外にいる人間にだって、特殊な力や能力を持っている人間はいるんだ。私はそれを調べた。だから、分かる。向こうの人たちだって使わなかったんだ」
「んあ?」
奴を叩き飛ばしたのは……絵之木実松だった。
「当然なわけないだろうが!」




