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氷風

 煉獄蝙蝠は烈火の如く怒り狂い、氷獄蝙蝠は死体に指を刺して虚仮にする。


 「なぁ、滋賀栄助。私が誰だったか覚えているか?」


 「知らん」


 怒り狂っているのは滋賀栄助も同じだ。眉間に皺を寄せて暴神立を強く握り締める。力強く足を踏み鳴らし、真下を向いてゆっくり歩く。下唇を噛み締めて、拳を握り締めた。


 「どの時代の人間でも、人を簡単に殺すような化け物は私の知り合いにはいない!」


 「ふむ……」


 「この人はお前が殺していい人間じゃない。人の命を守ってきた人間なんだ」


 「まあ、一つ言い返させて貰うならば、私もコイツに殺されかけていた。だから、先んじて殺し返した。そう思ったら、ソイツを殺しても良い気がしないか? 我々は化け物だが、命のある生命体だ。人間を喰うからなんだ? 人を襲うからなんだ? そんな理由で我々化け物が死んでもいい理由になってたまるか! これは殺し合いだろうが!」


 煉獄蝙蝠の太い腕が滋賀栄助に差し迫る。単純に怪物が暴れている訳ではない。三匹の悪霊の妖力を伝達している。分け合っているのだ。これは陰陽師と式神の関係と同じである。悪霊がこの技術を使うなど有り得ない。有り得てはならないのだが。


 紛れもない進化の兆しだ。奴等は有言実行している。確実に……知能を高めている。


 「うるせーよ、いい訳なんか聞きたくない!」


 滋賀栄助は逃げ出さなかった。今まで心に溜めて来た、行き場の無い気持ちを斬撃に変えた。抜刀術で煉獄蝙蝠の腕を下から切り落とした。苦しさを吐き出すように。煉獄蝙蝠は更に怒り狂う。般若のような凄まじい激怒。


 煉獄蝙蝠は身体に巻き付いていた車輪と、背中に背負っていた車輪が時計回りに回転する。煉獄蝙蝠の身体からは獄炎が垂れ流れる。熱気に当てられ滋賀栄助は少し後退りした。絵之木実松は冷静に考える。次の攻撃を予測してみた。


 陰陽師は自分の身体に流れる妖力を五種類に分類できる。炎、水、土、木、金の五種類だ。これらを組み合わせて陰陽師は戦う。複数の属性を使える陰陽師は多い。多くの妖怪と式神契約を結ぶ理由がこれだ。妖怪を使役するには妖力が繋ぎ目だ。妖力を連結させることで攻撃を応用させていく。


 「まさか……まさか……栄助さん!」


 煉獄蝙蝠の車輪からは……氷の息吹が吹き荒れた。暴神立から電撃を放つことで氷風を断絶する。地面に身体を転がして距離を取った。煉獄蝙蝠の車輪は数秒で止まった。笑う蝙蝠と怒る蝙蝠。この二匹の百鬼の力を陰陽師の死体を食べた百鬼が中継する。


 「陰陽師の戦い方を習得している百鬼……」


 「知っているとも! 江戸時代の英雄である賀茂久遠だろう! ソイツは!!」


 天賀谷絢爛の容姿をした逆鱗蝙蝠が楽しそうに大声で叫んだ。


 「何故、知っているかってえ! 俺は! 俺たちは! 薬袋纐纈が経営していた病院を、黙認して放置した、その辺の地域を守護していた昭和の時代の陰陽師だよ!」

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