極秘
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天賀谷絢爛が消息を絶った。そんな報告が御門城に届くも、誰もその事実を疑わしなかった。猪飼慈雲、賀茂久遠、水上几帳、この三人は現地に出ていき実際に百鬼と戦っている。そこで思い知った。勝負にならないと。百鬼を倒せたのは、滋賀栄助と絵之木実松だけ。他の三人は撃墜数ゼロ。そもそもこの時代の陰陽師が百鬼を倒せるはずがない。現実はどこまでも残酷だ。生きて帰って来るのが精一杯である。この戦いで多くの陰陽師が死に、一般人にも多くの死傷者が出ている。
もう未来はとっくに変革されてしまっているだろう。
驚くなかれ、まだ二十数体しか百鬼を倒せていないのだ。それも、百鬼同士の同士討ちも多い。幹部である百鬼将はまだ四人残っている。このまま無事に百鬼を駆除できるのだろうか。陰陽師が先に全滅するのではないか。いや、このまま世界から人類がいなくなるのではないか。そんな唐突な恐怖にかられた。それよりも滋賀栄助の落ち込む具合が非常にマズい。立ち上がる元気を完全に失っている。阿保のように薄っすらと斜め上を見上げて、気怠そうにしている。
「党首様……各名家の党首が揃いました。しかし……天賀谷絢爛様が百鬼との闘いで戦死された、とのことです」
党首は蚊帳に隠れて姿が見えない。首を縦に振る姿が映った。陰陽師の最高指揮官がどんな名案を思い付こうとも現状は変わらないだろう。相手は未来から来た悪霊だ。江戸時代の技術で対抗しようなど、馬鹿にするにも程がある。今まで気づいていても誰も声に出さなかっただけだ。
唯一、救われたのは仕来りを重んじて、滋賀栄助と絵之木実松にどんな罰を加えるか。そんな問答をする余裕が消え去ったことである。唯一の百鬼への対抗手段を失う訳にはいかない。
「これは困り果てましたね……」
「全く歯が立たない。それなのに、今では各土地に出現する。これでは手に負えない」
「ワシはもう、滋賀栄助にその場凌ぎでの戦ってもらうしかないと思うでごわす。我々は滋賀栄助が戦いやすいように、あらゆる面でサポートすること。それしかあるまい」
親方様が静かに頷いた。天守閣によって行われる最高幹部だけが入ることを許された超極秘会議に滋賀栄助と絵之木実松も参加していた。二人とも正座をしているが、滋賀栄助は完全に気が抜けている。祖父の死が心に残っている、というよりも、祖父のトラウマが再来していると表現する方が正しい。倒れそうになる滋賀栄助を、絵之木実松が何度も肩で支える。
「聞いておるのか!」
「はは」
猪飼慈雲の叱責に絵之木実松だけが返事をする。




