挙句
いつまでも滋賀栄助は項垂れていた。自分が既に幽霊などではなく悪霊だったと言われた。祖父は無惨にも嬲り殺された。自分たちの勝手で拷問された挙句、雪山で無惨に殺された。こんな時代が逆行した世界に連れて来られて、不慣れな生活を強要されて、戦うことを余儀なくされて、お前は悪霊だと突きつけられた。これで平然を保てるなら、そんなの人間じゃない。
今まで滋賀栄助は荒々しい性格を演じていた。常に明るくて戦いを楽しんでいて、薄っぺらいが正義感を持っていて、誰かを守る為に戦っているような人だった。でも、そんなの幻想だ。いや、絵之木実松という人間が、そう思いたいから、記憶を植え付けていただけなのかもしれない。彼女には過去があり、思い出があり、考えがあり、大切にしてきたものがあった。
それを全て失ったのだ。
「なぁなぁ。アイツは死んだのかな」
「ストレンジャージレンマですか。それとも薬袋纐纈ですか」
「同一人物だろうが。どっちもだよ。お爺ちゃんは一度寿命で死んでいる。亡くなる寸前にその場にいたし、私はお爺ちゃんの葬式に参列した。百鬼将が私を殺しているから、百鬼は……生きている人間なのかと思っていたけど……そうじゃなかった」
滋賀栄助は祖父が亡くなった地で横になって倒れた。仰向けになり、大空を見上げる。そして目を瞑った。大きく深呼吸をする。心を落ち着かせるように。
「あのカメラを持っていた百鬼も言っていた。私の生前も死後も関係ない。私の関係者でお爺ちゃんの関係者で、あの病院に関わっていた人間がこの世界に召喚されているんだ。きっと今まで倒してきた連中も、きっと私の知っている人間だった……」
ひどく落ち込んでいる。立ち上がれない程に精神が疲弊しているように思える。百鬼が大量発生しているので、ゆっくりしている暇はない。本当ならば今すぐにでも次の戦場で向かわねばならない。しかし、もうそんな陰陽師の常識や規則を押し付ける気持ちにはなれなかった。そんなのあまりに残酷過ぎる。
「どうして……どうして……こんなに頑張っているのに……」
「私は生まれつき悪霊が見えた。病院の中で死んでいく人間の姿がしっかり見えた。それがお爺ちゃんにバレて利用された。同情なんかするなよ。私は……きっと、この能力で百人くらい人を殺している……」
百鬼は全員、昭和の時代の死人だった。きっと悪霊に殺されて自分たちも悪霊になってしまった。もう、そう思うしかないのだろう。
「ははは。笑えねぇぞ。こんなこと教えて欲しくなかった。お爺ちゃん……最後まで俺に対して意地悪だぜ。こりゃあヤベェな。心が……痛い……」




