一閃
「まだ死んでいないのですか!!」
「あの段階ではな。でも……死んだよ」
鋏のように刀が真っ二つに割れた。肉食動物の牙のようなギザギザした刃先になっている。その断面から涎のような粘着性のある液体がこぼれ落ち、そのまま灰と化した血染蜘蛛にかぶりついた。それから空中に焦げた遺体を投げ、そのまま上から踊り食う。刀が蜘蛛を吸収した、のではなくそれこそ飲み込んだという表現が似つかわしい。月明かりと散らばる火の粉がその異色さを際立たせる。
「こうしないと復活するのさ。妖刀『暴神立』。命名者が私だから将来有名にはならないだろうね」
未知数な不死身の化け物が死んだことによる安堵が心を包み込んだ。自分の力だけで、と言うのは厚かましいのだが、およそ私の力だけで妖怪を退治したのは今回が初めてだ。悪鬼を退けた充実感、自分も役に立ったという達成感、人々を守ったという英雄感。陰陽師の雑用ばかりを命じられて早数年。その全てが心を覆い尽くした。
そのあと数秒後に心を不安が襲った。結局、私は彼女の事を何も知らないのである。午前中はあんなに不気味に楽しそうな顔を浮かべていた女が、無表情な顔つきになって直立不動で動かなくなってしまった。なんなら不機嫌そうにも見える。
「終わってしまった」
「なんでちょっと嫌そうなんですか。苦しい戦いが終わって嬉しいじゃないですか」
「アイツ、結局喋らなかったな」
そう言って刀で空を一閃し、付着した緑色の血液を地面に飛ばすと、鞘に妖刀を戻した。
「あなたには聞きたいことが山ほどあります。あなたは何者なんですか?」
「そんなことはどうでもいい。お前……どうしてあの作戦が通用すると思った?」
大胆にも無視された。かなり重要な質問だったと思うし、自分の事をどうでもいいと言っているようなものだぞ、なんて思ったが彼女の顔が真剣になっていたので、渋々答えてやることにした。
「いいですか。虫っていうのは光に集まる習性があってですね」
「そんなことは知っている。馬鹿にするな」
小声ではあったが確かに苛立ちを含んでいる。木材が焦げて真っ黒になった足場を蹴飛ばし、私の方へ近づいてくる。気迫に押されて一瞬怯んでいる瞬間に、目と鼻の先まで距離を詰められていた。
「蜘蛛は昆虫じゃない。羽もないし飛行能力もない。お前の理論で蛾やカナブンが殺せたならば納得がいく。でも蜘蛛は光に集まる習性なんかない!」
胸倉を掴んで脅迫するかのように、大声で怒鳴った。




