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貿易

 奴等の過去の世界にはレベル3の悪霊はいない。未来の世界の奴らも百鬼になる為に死んだはずだ。時代をやり直す。悪霊になれば陰陽師に倒されない限りは消えないので、自分たちの時間軸を消し去ってもう一度歴史を江戸時代からやり直している。そう考えるべきでは……。


 「ん? そうなのか?」


 「やっぱり分からないですよね。私は未来人という概念が分からないですよ……」


 「もうすぐ鎖国が終わるぞ。日本は世界と交流や貿易を開始する。その中で何度も激しい戦争があった。その中で日本は少しずつ技術を進歩させていくんだ。道路とか整備されて、自動車とか走っている世界だぞ。元号は江戸、明治、大正、昭和って変わるぞ」


 「それ、言ってしまってもいいんですか……」


 よく分からない単語が飛び出してくる。そして、思いついてしまった。過去に戻れるのであれば、未来に向かう方法もあるのではないか。百鬼がそれを知っているかもしれない。向こうの世界に帰れるならば、生き返れるのかもしれない。


 「栄助さん。もう一度、あの未来に戻りたいと思いますか?」


 「うーん。俺は死んだ時にタイムスリップの原理を理解していた訳じゃないからな。戻れるとは思えないけど……戻れるなら戻りたいかな」


 これは滋賀栄助さんが……未来に帰った時に、向こうの世界が無茶苦茶になっている。この江戸時代で百鬼に殺されてしまった人がいて、未来の世界では彼らの子孫は消滅してしまうのではないか。過去の改変、これは何よりも危険な破壊活動ではないのか。


 「栄助さんが未来に戻った時に……もう栄助さんが知っている未来はないかもしれない」


 「うーん。そんなこと言うなら、私の元の身体である薬袋的みないいくわも死んでいるから。死体も残っていないだろうし。そもそも私が生活していた時代に帰れるかも分からないし」


 考えれば考えるだけ、もう元の世界に帰るのは不可能に思えてくる。


 「この世界で生きて、死ぬのも悪くないって思うよ。お前と離れたくもないしな」


 「あぁ、ありがとうございます」


 滋賀栄助が優しい笑顔を見せた。とても慎ましやかな笑顔だった。手と手を重ねる。


 「それに、未来を変えたくないなら、この時代でなるべく早く百鬼を倒してしまわないと」


 「そうですね。百鬼を全滅させることが未来を守ることに繋がるんですよね」

 

 薬袋的は殺された。その言葉を聞いて、少し気がかりな人間を思いついた。本物の滋賀栄助、この時代に生きていた滋賀栄助はどこにいってしまったのだろうか。未来に飛んでいるとは考えられない。薬袋的は生きていない。じゃあ、どこへ行ってしまったのか。


 「栄助さん……ちょっと気がかりなことがあります、無駄な行動になるかもしれませんが」


 「なんだよ……」


 「元の滋賀栄助、この時代の滋賀栄助を調べたら……何かが分かるかもしれません……」

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