貫通
以前までは百鬼は滋賀栄助のいる場所を狙って出現していた。もしくは、滋賀栄助の行動を促す襲撃のみだ。しかし、今回の出現は滋賀栄助を意識している気がしない。無差別攻撃を実施している。
レベル3の百鬼にどうやったら至れるのだろうか。その謎が解明されない。獣脚類も翼竜も一切人間の言葉を話さない。ただ此処に暴れ回るのみ。興味深いのは互いに互いを攻撃しないことだ。動きは独立している。
「ストレンジャージレンマ参上!」
まだ陰陽師が登場してはいない。もう誰も歯止めが効かない状況で颯爽と英雄が登場した。この時代の人間には一切理解できない恰好。鉄砲しかない世界に、拳銃の概念が登場した。あまりに意味不明であり、歪なのである。全身機械に顔を覆い隠すマスクを着用している。凄まじい覇気だけではない。その妖力は百鬼将を凌ぐ。しかし、その拳銃の先には二匹の怪物がいた。
数分後には二匹ともハチの巣にされている。抵抗する間もない。反撃しようにも近づけない。余所者英雄が放った一撃は百鬼を完膚ないまでに貫通した。奴らの皮膚は強固なんだが、それを持ってしても弾丸の貫通力の方が強い。しかも、この銃弾は妖力を放っている。つまり、リロードの概念がない。
「悪を許すな!」
二匹はあっという間に灰燼と化した。この町は一人の英雄に救われたのである。あんまりにも一方的な戦いだった。ただの狩猟だった。怪物たちに同情する間もなかった。余所者英雄はすぐに次の行動を開始する。
「何故、男のくせに子供を守らない。村を守る行動をしない。お前たちが守らないで誰がこの町を守るのだ。逃げ出すとは情けない。呆れたものだ……」
ストレンジャージレンマのことを賞賛する声はあがらない。もう住民は逃げ切ったあとだった。あの二匹も特定の人間を攻撃していた訳ではないので、この村からは誰もいなくなってしまった。家々が倒壊し、その場には木屑しか残っていない。生活していた形跡はあるが、その大半が崩れ去ってしまった。農業用具が辺りに散乱する。風の音だけが静かに流れる。
「さて、悪を殺しにいくか」
そう思い移動しようとするも足が止まる。道端に花が咲いていた。その花を避けて道を歩く。そして、少し歩いて、まだ同じ場所へ戻ってきて綺麗な花を踏み散らかした。
「駄目だ駄目だ駄目だ! 私は何をしている! あれほど考えるなと言ったのに!」
気が狂ったように叫び声をあげる。自分で自分を戒める声。
「あれ? 誰を殺そうとしていたっけ? 忘れたならもういいや」
冷たい機械は、また歩きだした。次の獲物を狙う為に。何時か宿敵と相まみえる為に。
「武雷電。お前は今……どこにいる」




