重装
ストレンジャージレンマ。そう名乗った機械は二丁拳銃を植物人間に突きつける。
「何をしているの……。お前……」
女も意味が分からないという顔だった。口をを開けたまま、目を丸くしている。うねうねと動き回っていた巨大植物たちが止まってしまった。英雄と言うにはあまりに意味不明。正義の味方らしい姿をしていない。黒と紫を基調としており、蝙蝠の形のバイザーが怪しく光る。仮面を被っているので素顔が分からない。
「貴様を倒す。それだけを知れ」
相手は古くから存在する神獣であり魔獣。此方は近代が生み出した機械の身体を持つ英雄。水と油どころではない。もう時代も歴史も世界観も違う。凄まじい不協和音が漂う。
「お前、私と同じ百鬼だろ。どうして邪魔をする……」
「俺は自分を百鬼だと思っていない。俺を百鬼の仲間だと想像してくれるな。俺は自分の正義に従って悪を捌くだけ。誰の味方でもない……」
カッコいい台詞をイケメンボイスで言い放つ。しかし、マスクが邪魔をして声が籠っている。マントが突風に揺られて舞い踊る。まさに英雄と怪物が出会った瞬間を醸し出している。
「あぁそうですか。じゃあお前から……」
「貴様の花粉など効かない。お前の誘惑に屈する私ではないのだ」
いや、仮面を被っているから花粉を吸い込まないだけでは……。
「イライラしてきた!」
ドリアードは敵対する者に容赦がない。容赦なく巨大な弦を伸ばし、上空から地面へ叩き付けた。それを仮面の機械は後方に躱す。重い重装に見えるが案外軽い。続けざまに拳銃から銃弾を乱射した。一撃ずつで弦が空中へ弾け飛んでいく。衝撃波に似合わず成果が大きい。
「知らないのか? 正義は必ず勝つ。勝った方が正義なのではない。この私こそが正義なのだ。人知れず悪を殺す。それが我が絶対正義なのだ」
「もう、訳が分からないことを言うな!」
遂にドリアードが膝に置いていた弓と矢を取り出した。遂に武器を使用する気である。大きく弦を引き、目をギラギラと輝かせる。すると、ジレンマの足元から弦が生えてくる。瞬時に足に巻き付き、身動きが取れなくなってしまった。
「人間の血の90%は水分なんだよ……。さぁ、死んで噴水みたいに血を流してね。水が無いと枯れちゃうから……」
そんな言葉を甘く囁くように言い、容赦なく弓を放つ。その弓はジレンマの腹部に直撃し……何事も無かったかのように地面に落ちた。身体を貫通しなかった。機械の身体には傷一つついていない。
「なぁ……」
「ふん。小賢しい真似をするな。そんな弱者の猿芸では、真の正義である私には勝てない」
お返しとばかりに二丁拳銃を同時に発砲する。その弾丸はドリアードの眉間を正確に撃ち抜いた。目にも留まらぬ早業である。ドリアードの本体は地中にいるはず、人間ではなく植物が本体であるはずなのに。砂埃のようにドリアードは姿を消していった。あんまりにも味気ない、呆気ない最期であった。
「正義は成した。それでは去らばだ」
奴はその場にいた陰陽師を襲うでもなく、ただドリアードの亡骸である砂埃に紛れて姿を消していった。猪飼慈雲はその姿を追うも、奴はもうどこにもいない。
どちらも百鬼。完全に百鬼同士でつぶし合っていた。そんな異質な姿が目に焼き付いている。




