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栄養

「何だろう、私何にでもなれる気がする」


 植物が徐々に巨大化していく。根を張って地面から栄養を吸収している。周囲の植物が呼応するように枯れていくのだ。自然豊かな地が一気に寂れた地に変わってしまった。その分、生き生きとする女性。緑色の髪が伸び、胸が膨らみ、背丈が伸び、邪悪さが増す。


 「貴様、百鬼か!」


 「百鬼? あぁ、そういう言い方になるのかな。そうだね~。そうそう。ドリュアスっていうの。この国ではドリアードって言い方が馴染み深いのかな」


 妖力の位置から本体は緑の髪をした美しい女性ではなく、長く生きてきた古木であることが分かった。しかし、地中に本体が隠れているので、つまり地上に出ている奴を焼き払っても意味がないということである。いや、その前に百鬼なので倒せないのだが。


 「おい、何をしている!」


 猪飼慈雲が権勢の為に距離を稼いでいると、陰陽師である部下たちがフラフラと洗脳されたように歩き始めた。先ほどまで近接していた者たち。妖気を吸ってしまったのか。男を誘惑して虜にする、まるで物語の化け物の習性だ。そのまま食虫植物たちが人間を包み、捕食してしまった。百鬼……本当に躊躇いもなく人間を殺す。


 「美味しい! 人間は美味しい!」


 可愛らしい声で恐ろしい発言をする。よく見ると奴の膝元には矢の無い弓を持っていた。だが、日本製ではない。明らかに欧米の者と推測されるフォルム。絵之木実松が調べていた西洋の神獣をモチーフにした妖怪。そう考えるのが妥当だろう。


 猪飼慈雲はお札から狛犬を取り出した。勝てずとも戦うしか道はない。あの巨大な蛇の影響で江戸付近まで飛ばされた滋賀栄助が、岩国まで助太刀には来てくれないだろう。奴が吸収できる範囲を限定する。ここから逃がさず、犠牲者を出さずに、膠着状態を維持する。


 …………果たしてそんな絵空事が可能だろうか。


 「残りも皆食べちゃおう」


 奴が広範囲に花粉を巻き散らした。全身を使って身体を揺さぶり、真黄色の不気味な粉を振りまく。走ろうが回避できない。仮に逃げれても空気感染する。人間は……ここまで無力なのか。


 「諦めるな!」


 不意に後ろから老人の事が聞こえた。そこには仮面を被り、真っ黒なマントを羽織って、全身を鋼鉄に固めた、人間がいた。いや、コイツも人間ではない。その手には鉄砲があった。しかし、あんな造形の物を猪飼慈雲は見たことが無い。余りにも短しのだ。


 その手には二丁拳銃があったのだ。


 「自分の敗北や死を想像するな! 想像するから弱くなる。人間に想像する力などいらない!」


 何やら訳の分からないことを叫び、岡台から掛け声をあげて戦場に飛び込んでくる。マスクをして呼吸器を隠している以上は粉末は効かないだろうが、江戸時代には登場するには有り得ない姿をしていた。その姿はまさにダークヒーロー。力強く変身ポーズを決める。後方では何故か爆発が起こり、紫色の煙が上がった。猪飼慈雲は目を丸くして困惑することしかできない。


 「なによ、お前……」


 「ストレンジャージレンマ! 参上!」

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