貴公
武雷電の表情は甲冑に覆われてよく分からなかった。しかし、迸る妖気で苛立っているのが分かる。宇宙空間で胡坐をかいて座り込んだ。
「百鬼将にはそれぞれ従える部下がいる。伊代羅刹龍よ。偽神牛鬼の部下が一定数いるはずだ。狙うならば、そこではないか」
「……ふむ」
偽神牛鬼の部下はまだいる。先の吉原の件で部下も多くを失ったが、それでも残党は存在する。百鬼将には元々付き従う部下がいるのだ。偽神牛鬼と鶯小町の関係のように。近代の時代で関係性がそのまま残っている連中だ。
ちなみに武雷電の部下は一切誰も死滅していない。
「武雷電殿。貴公もこの戦いに参加して欲しい。我々、百鬼は進化をする前過程であり完全ではない。我々とて負ければ終わり。是非……」
獄面鎧王の不安気な声に見向きもしない。
「我に部下などいない。貴様等と違って部下と呼べる人間はいなかった。これでも、ただの役者だからな。我は役を演じるまで……この百鬼という役を」
この百鬼閻魔帳にて唯一、書物としてだけではなく、映像化しているのがこの武雷電だ。その物語はまさに勧善懲悪のヒーロー物。悪の軍団が現れて、それをヒーローがやっつける。日曜朝早くに放送していそうな、そんな内容。正確には逆輸入であり、先に映像化でそれを見て物語となったという順番だが。
「我が部下としてではなく、我が盟友として動き出した奴がいる。勿論、私は何も言っていない。ただ本人が己の正義を胸に動き出した」
武雷電には様々なキャラクターが登場する。悪の大首領、正義の仲間、雑魚の戦闘員、そして……ダークヒーロー。時には主人公に駄目だしをして、時には主人公の味方をし、時には主人公と刃を交える。
「なんと! アイツが……」
「その名を……ストレンジャージレンマ」
★
陰陽師機関は焦っていた。百鬼の出現件数がここに来て増えている。あまりに多い。百鬼は不死身の存在であり、滋賀栄助にしか倒せない。どんな強力な陰陽師が応戦しても倒すことは不可能だ。名家の陰陽師達は必死に応戦しているが、相手が逃げ去るまでの防衛にしかなっていない。だから吉原に水上几帳を寄越したのだ。あの二人を連れ戻す為に。
しかし、忘れてはいけない設定がある。百鬼を倒せるのは滋賀栄助だけと言ったが、実際には……百鬼同士で共食いをすることが出来る。百鬼は百鬼を殺せるのだ。同士討ちが実際には成立する。
「ふふふ……どうですかぁ? お兄さん」
場所は周防岩国。ここにも百鬼が出現した。足が植物の幹と化した女がいた。百鬼『人食植物』。その姿は美しい女性なのだが、その振る舞いは獰猛そのもの。近くにある植物を自由自在に操り、人食い花へと変化させる。植物の弦にて人間を捕まえて、女を口を広げて捕食する。何度も炎を浴びせるも大木が邪魔をして一向に奴を焼き切れない。
ここに猪飼慈雲がいた。相性が良い訳では無い。相手が完全に植物なら炎の使い手である天賀谷絢爛に任せるべきだったが、今更言っても後の祭りである。
「くっ、どうにかならないのか……」




