死声
偽神牛鬼が化け物となって巨大化した。周囲にあった紫煙を全て吸い込んでしまった。身体中の骨が肉を突き抜いていく。甲冑は剥がれ落ちていく。身体中の肉はブチブチと音を立てて消えていった。そして、骨だけの龍と化した。信じられないくらいのサイズの怪物。顔の高さや民家の屋根の高さを軽々と超えた。
ただの化け物となってしまった。
「しつこいな」
「本当にしつこいですね。刀を奪えれば勝てると思ったのに」
ただこれは最後の悪足掻きであることが分かる。奴の思考力は随分と下がった。ただ暴れ回るだけの怪物である。元は一流弁護士で、次が落ち武者で、最後は巨大な化け物。奴の頭脳は強くなる度に弱体化している。奴は進化すれば意思が生まれると言った。しかし、奴にはそれを感じない。
これは退化なのだ。自分の身体の中に妖力を溜めておけず、ただ発散するだけの化け物。悪霊のレベル1の状態に見える。おそらく復活もしない。もう奴にそんな能力は持っていない。
色々な人間の気持ちが分かった。誰かの痛みが分かった。戦う力があった。奴が英雄になる要素なら山ほどあったのだ。正義の弁護士になれたはずだ。これが成れの果てなら世の中はやはり理不尽だ。
「こっちを狙ってこない」
もう誰と戦っているのも分かっていない。民家を引っ掻いて破壊するだけ。逃げることも、隠れることもしない。小学校低学年生が自我を失った際に暴れ回るように、ただ自分の身体を大きく動かしてるだけだ。水牛のような唸り声をあげるだけ。
「可哀想に……って感情も沸いてこないな」
「よく分からないけど、こうすればいいのかな」
水上几帳が扇を真上に振る。神様に美しい舞を奉納するように。大気中の水分を天空に巻き上げてくれた。栄助が暴神立を天空に突き刺し掲げる。偽神牛鬼の頭上に暗雲が立ち込めた。雲の中で雷が鳴り響く。それでも、偽神牛鬼は振り向きもしない。
「訴えてやる! 訴えてやる!」
最後に聞こえた声は……そんな言葉だった。罪と罰を抱え過ぎて崩壊した怪物。自業自得の成れの果て。すると、腕に抱きかかえていた闇荒御魂が共鳴していることを感じた。まるで引き寄せられるように、雷雲に向けて妖力を送り込んでいる。絵之木実松は滋賀栄助と一緒に刀を天空に掲げた。もう腕の痛みはない。
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「人生は楽しいかね」
「えぇ。院長。だって僕以上に嫌われている、恨まれている、妬まれている弁護士はいないんですよ。その分、僕は幸せです。全戦全勝ですから」
「では、弱者の声は聞こえているかね。君が人生を破綻させた人間の死声は聞こえるかね」
「はい。聞こえますよ。最高に心地いいです」
★
「あ、あ、あぁぁ、がぁぁぁあぁ」
「「招雷暴神立!!!」」




