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紫煙

この暴神立に更に電撃を加える。ありったけの放電を受けても奴は倒れない。闇荒御魂を地面に突き刺し電流を外に流している。いや、そんな理由で防げる体制ではないのだが、現に奴の動きは止まらない。奴の妖気は増していく。


 「悪意だ。この世に悪意がある限り、私は負けない。心身問わず他人の痛みを共有出来る、つまり私は無限に痛みを吸収できる訳だ。その痛みを苦しみを絶望を私はこの刀の威力に変える。この世から悪意が消えない限りは私は不滅だ!」


 そんな言葉を意に介さないと、更に栄助は電流を上乗せする。電撃が周囲にも飛び火して、家々を燃やし始めた。偽神牛鬼の足元の地面が罅割れる。栄助の両手は火傷の跡が合った。それでも両者一歩も引かない。


 「拙者の愛を受け入れろ! その全てを拙者に捧げろ!」


 「本当にいい加減にしろよ、気持ちが悪いんだよ!」


 悪意を持って、強い思いを込めて、純粋な殺意を持って、刀を振り下ろす。


 絵之木実松は考えていた。鶯小町が消えてから何もしていない。奴の能力を受けて苦しむと、栄助が心配すると思い、偽神牛鬼から見えない場所で隠れていた。あともう一押しが足りない。あと一歩が欲しい。この紫煙さえ消えれば……逆転できる。妖怪と契約して式神がいれば、この霧を消せたかもしれない。烈風を起して霧を消せれば奴は再生しない。


 何か……何か……。


 「感覚の共有……」


 思いついた時には走り出していた。あの白髪の弁護士を狙ってとにかく駆け出した。近づけば五感の共有感覚が来る。吐き気や動機が絵之木実松を襲う。気持ちが悪い、全身を得体の知れない痛みが襲う。しかし、それでも向かって行く。


 「なっ!」


 栄助が気が付いた時には……もう偽神牛鬼の目の前まで来た。普通に考えれば控えている方が正解だ。滋賀栄助もまさか実松が助太刀に来るなど思っていなかった。いや、来て欲しくなかっただろう。自分が偽神牛鬼を倒すまで隠れていて欲しいと思っただろう。


 ……それでも馳せ参じる。頭上を火花が襲う。全身を紫煙が襲う。生きている心地がしない。


 「ぐっ!」


 そして、奴が握っている闇荒御魂を握った。腕力増強を狙うなら栄助の握っている暴神立を握るはずだ。だが、その真逆のことをしている。だが、奴のどこを切り裂いた所で、奴は再生するから無意味だ。


 「貴様、何をしている!」


 あまりの意味不明さに偽神牛鬼は反応が遅れた。切り裂く対象を栄助から実松に変えて、叩き切る選択肢もあっただろう。だが、それが出来ない。実松を殺せば自分にも死ぬ痛みが入る。学後をすれば奴にそれは出来るだろう。何度もその経験を乗り越えてきたはずだ。しかし……瞬間的な躊躇が生まれる。そして……。


 闇荒御魂を奪い取った。

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