顧問
偽神牛鬼はゆっくり立ち上がった。そして、彼女を顔の下からゆっくり見た。あの時の顔つきと違う。彼女は現代では容姿が全く違ったが、とても楽しそうな顔をしていた。悪霊を病院に呼び込んでいた、彼女は院長に似た最高の笑顔の持ち主だった。そんな彼女に感銘を受けたのに。
真剣に、誠実に、真っすぐに、直接的に、混ざりっけなく、これ以上ないくらい憤慨している。
「なんだ、その目は。拙者は人の痛みの分かる悪霊なんだ。加えて、他の人間に痛みを教えることが出来る悪霊だ。小学生の頃に習って誰も出来ない技術を全世界共通で実行出来る神にも等しい存在なのだぞ。何を怒っている」
「自分のことしか考えていないから。どんなに痛みを拡散させても、痛みを分かち合っても、痛みを共感しても、お前は一歩も成長していない」
奴の能力は院長の言葉を参考にしたのだろう。院長は痛みこそが成長への鍵だと思っていた。だから奴は他人の痛みを吸収する能力を選んだのだ。自分自身を追い詰めて、他人をも追い詰めた。奴の頭の中ではこれで上手くいく予定だった。
「拙者が一歩も成長していないだと」
奴の計画は大詰めだった。滋賀栄助から天和御魂を奪って、百鬼を殺す刀を双頭持ち、妖力を搔き集めることで進化をする予定だった。しかし、それは……成功するのか。計算式は合っているのか。
「その言葉だけは聞きたくなかった。拙者は成長したのだ。これからも成長するのだ。何の為にあの頭のオカシイ病院の顧問弁護士をしてきたと思っている。誰があの病院を守ったと思っているのだ。いや、違う、違う。私が……守ったのは……」
お前だよ、薬袋的。お前に活動を止められては困るから。悪霊が進化をする為に、お前の存在が何より必要だったから。途中から特別な感情が沸いていた。自分に悪霊が見えるようにしてくれた、更なる理想を叶えてくれる存在だった。途中から院長よりも愛していた。何度も声を掛けた。何度も無視されたけど、それでも……。
「どうして! 拙者はお前を誰よりも守っているのに! 生前、我が刀はお前の為に振るったのに! どんな面倒な仕事も苦じゃなかった。お前の生活を守りたかったんだよ!」
そして気が付いた。違う。自分の為だ。あぁ、自分の為だ。彼女を守ったのは事実だが、それもこれも自分の為に頑張っていたのだと。
「気色悪いことを言うな! ロリコン侍!」
偽神牛鬼の気の動揺が顕著に表れ始めた。ようやく滋賀栄助の斬撃が奴を上回っている。形勢逆転、攻撃と防御の側が逆転した。暴神立が奴の身体に重くのしかかる。




