一号
レベル3……? 不可解な言葉が飛び交う。だが、コイツとの戦闘で分かることは多い。百鬼将の中でも恐らく必須アイテムを任された男。誰よりも誰かの痛みが分かった男。
「レベル3?」
「悪霊は元は巨大な怪物だった! そこから進化して人型になった。妖力を収縮して人間と同じ大きさになった」
ここにきて偽神牛鬼の圧気が増した。雑な大振りで栄助が吹っ飛んでいく。店の屋根まで吹っ飛ばした。今度は有り得ない跳躍で屋根まで飛び込み、走り込んで滋賀栄助に切り込んでいく。怒涛の連撃が止まらない。まるで大工が釘を打ち込むように。頭の上から剣を振り下ろす。局部を狙った精密な斬撃ではない、強引な力づくの暴力で押し進めていく。
あの滋賀栄助が防戦一方だ。もう刀を受け止めることしか出来ない。耐え続けるも腕に振動が奔る。このままではいつか負ける。滋賀栄助はただの人間だ、疲労もするし怪我もする。これに対して偽神牛鬼はそれがない。まさに不死身の怪物だ。
「このままじゃ負ける……」
今までの百鬼とは違う。世界蛇も極めて強かったが、アイツの強さとも違う。妖気の桁が違う。おそらく人間を殺してきた数が違う。倒せる要素を感じない。招雷は耐えられた、剣撃は効かない、身体のどこを切っても復活する。おまけに痛みを共有する能力つき。悪霊としてコイツは完成されている。
「何だ、レベル3って」
「悪霊の究極体だよ。どこまでも進化した『意識を持つ』悪霊だ。想像できるか? ただ人間を道連れにして殺すだけの悪霊が、自らの意識を持って行動するのだ」
理解不能、あまりに理解の外だ。何を言っているのか分からない。
「より人間社会に紛れる。より狡猾に人間を喰らう。より残酷に虐殺する。世界を悪意で染め上げる。これが革命なのだ。痛みを持って進化した悪霊の最終形態なのだ! その第一号、記念すべき最初のレベル3。全ての悪霊の支配者となり両御魂を持つ無敵の悪霊、それに、この、私が!」
その言葉を言い終える前に奴の両足を切り落とした。派手な上からの大振りが続いた。あまりに雑だった為に足元をすくわれたのだ。屋根の上を転がり落ちる。そして砂の上に顔面から激突した。
「お前は正義の弁護士じゃなかったのかよ。死者の痛みをも分かる、正義の弁護士じゃなかったのかよ!」
妖気を集めて脚を復活させ立ち上がろうとする偽神牛鬼の白髪の顔面に栄助が降りてきて蹴飛ばした。もう栄助は笑っていない。至って真剣な顔つきになっている。
「馬鹿め。勝った者が正義、勝者のみが絶対。小学生の時に習わなかったか?」
「お前は天才になれないし、秀才でもない。ただの独り善がりの変態だ! これ以上無様を晒す前に叩き切ってやる!」




