切腹侍の異世界転生
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時は江戸時代。
徳川家が幕府を開き、将軍として政治の実権を握っていていた時代である。
その将軍のお膝もとのである江戸の町で二人の男が話していた。
「あっ、おい見ろ。またあいつ腹切りしようとしているぞ」
男が指差した方向には白装束を着た男がいた。
その男は頭がぼさぼさで目には深い隈があり不精ヒゲを生やしたいかにも主君を持たない侍であった。
この侍は背はさほど高くないが、がっちりとした体つきをしており、並みの実力では彼には勝てないようであった。
侍の目の前には短い刀が置いてあり、床には白い布が敷かれていた。
「何だ?あのお侍さんがどうかしたのか?」
もう一里の男が聞いた。
「ああ、あいつはな・・・」
ふっと、男が解説しようとすると、侍は短刀を引き抜いて、それを思いっきり腹部に刺した。
切腹である。
「おい!腹切りしたぞ!」
「いや、大丈夫だ。あの侍はな・・・」
その時、ガッキーンという硬い物を叩いたような金属音が鳴り響いた。
彼の腹部には短刀が刺さっておらず、またそこから血がまったく出ていないのか白装束は白いままだった。
そう、彼は無傷だった。
「ど、どういうことだ・・・」
「ああ、彼は腹筋を鍛えすぎて切腹したくても切腹できないんだ」
「そうか」
侍は死ねないことに満足しながら帰ろうとした。
だがしかし、
「お望みとあれば」
どこともなく邪神が侍の前に現れ、銃で彼を射殺した。
「ウッ」
侍は本当に死んでしまった。
◇◆
―――参ったな。これじゃあ「自殺(笑)」ができないぞ。
侍は天の神を刀で脅し、異世界に蘇った。
彼は切腹するための準備に取り掛かった。
まず、彼が最初に向かったのは武器屋だった。
「いらっしゃい・・・、あんた随分と変わったかっこうしているな・・・」
武器屋の店主は侍の異様な姿に少し引き気味だ。
「自分の腹を切れそうで切れない刀をくれ」
「帰れ」
侍は店から追い出された。
―――不覚!これでは「切腹(笑)」ができない!そうだ・・・
彼は右手から短刀を生み出した。
―――よし、これで「切腹できるな」
そして、彼は切腹するためにこの世界で最も目立つ所を探し始めた。
◇◆
「ぐわあああああああああああああああ!」
魔王は侍の刀裁きに一瞬にして敗北した。
「き、貴様。この世界最強魔王であるこのわしを倒すとは・・・!い、一体何が狙いだ!」
魔王がそういうと侍はこう答えた。
「ここで切腹したい。介錯をたのむ」
「はっ?わけがわからん・・・。『切腹』、『介錯』とは一体・・・?」
魔王は理解に苦しむと、侍は魔王を無視して逆座をどかした。
「な、何をするつもりじゃ・・・?」
侍は真顔で魔王に言った。
「そこの物の怪よ。白い布敷くから手伝って」
「はっ?」
魔王は侍の言われるまま、切腹の準備を手伝わされた。
「これでよし。後は物の怪よ。そなたに介錯を頼むのみよ」
「だから『介錯』って何じゃ。後、わしは物の怪じゃなくて魔王じゃ」
侍は魔王のツッコミを無視して、白い布の上に正座した。
―――これで「切腹(笑)」ができる。
「いざ、SE☆PPU☆KU(切腹)!」
侍は江戸の町にいたときと同じように見せ付けるように切腹しようした。
「貴様!早まるな!」
しかし、彼が切腹する前に魔王の拳が彼の頬を打った。
―――これは新展開!?
「馬鹿なことをするではない!何のためにわしを倒しにきたんだ!自殺するためなのか!たわけめ!世の中いいことがもっとあるぞ!」
―――すいません、これが拙者の楽しみなので。
魔王の説教は侍の心には響いていないようだ。
「そうじゃ!自殺を考えているお主に『生きる』目的をやろう」
「ほう、何をくれるのだ」
侍はせっかくの楽しみを妨害されたので少しイラついていた。
「魔王の座をお主にくれてやる」
「・・・『魔王』とは何だ?」
侍はまるで意味をわかっていなかった。
「まぁ、偉い人っていうことじゃな」
「本当でござるか!?それって将軍より偉いということか!?」
「(将軍?)ま、まぁそうじゃな」
魔王は侍が言った「将軍」に疑問抱きつつもやけくそ気味に続けた。
「まぁとにかくわしは疲れたからな。ということで今日から貴様が魔王だからくれぐれも自殺するではないぞ!」
こうして、侍は異世界で新たなる魔王になった。
さらには魔王の娘を妻としてもらい、二人の子供に囲まれながら平和に暮らしたとさ。
めでたしめでたし。
◇◆
―――やっぱ「切腹(笑)」しないと気が持たぬわ!
夜中元侍の魔王は切腹しようとした。
当然、腹筋をものすごい鍛えていたので腹部に刺すことができなかった。
―――うん、満足。
「お望みとあれば」
また天から邪神が現れて、ロケットランチャーで元侍を爆殺した。
「またこのオチかよ!」
元侍の断末魔が魔王城に鳴り響いた。
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