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打倒勇者  作者: 黄金金庫
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プロローグ

 「真理を知ってしまった」と言うのはいささか大袈裟だろうか。

 でも今はそんな気分だ。

 目の前にいる女性はもう不敵な笑みを浮かべてはいない。

 彼女は自分の答えを待っている。

 このまま要求に従ってもいいのだが、それは結末の変わらない「世界の理」とやらに囚われることを意味している。

 だったら……。


 「お前の心臓を刺す、という考えは止めた。まだまだ現役でいてもらう。が、この剣はこのまま貰っていくぞ。いいな」


 女性は何も言わなかった。


 「いいな」


 もう一度、今度は大きめの声で。

 すると自分の真下に大穴が空き、体は気持ちの悪い浮遊感に包まれる。

 落ちる寸前、最後に見た女性の顔には「勝手にしろ」と書かれていた。


 ---


 突然、顔が太陽光に晒されたかのように熱くなった。

 まだ寝ていたい。

 しかし、徐々に頭は回転していく。

 また、同じ夢を観た。

 いつからだったか俺はたまに同じ夢を観ることがる。

 いつからだ?と考え始めたが、あまりの熱さで思考が別の方へ向いてしまう。

 熱い、さらにパチパチと音がする。

 もしかして…。


 「火事!?」


 飛び起きた。

 薄目で慌てて周りを確認するも窓からは灰色の雲しか見えず部屋は薄暗い。

 茫然とベットに腰かけると上からクスクスと小さな笑い声が聞こえた。

 人型の小さな火の精、名前は「アルト」

 ある日いつの間にかランタンの中にいて、出してやるなり俺の周りをちょこまかと飛び始めた彼女は時々悪戯をしてくる。

 そうだ思い出した。

 あの夢を観るようになったのは彼女が来てからだ。

 夢操の魔法でも使っているのだろうかと座ったまま考えていると彼女が目の前まで下りてきてにニコニコしながら八の字に飛び始めた。

 俺はそのまま茫然と座っているフリをし、さらに近づいてくるのを待った。

 今度は俺の鼻をタッチして離れて、タッチして離れてを繰り返している。

 じっくり行動パターンを見極めて、全力で掴みにかかる!!

 

 「どーよ、捕まえたぞ。このまま鳥かごに…」


 言い終わらないうちに彼女は一瞬で灰になってしまった。

 またもや茫然と灰を握っていると、今度は枕の方から笑い声が聞こえた。

 見ると小さな体が枕の上で腹を抱え爆笑している。


 「コイツ…」


 もう構っていられるか。

 俺はおもむろに立ち上がり荷物を持って部屋を出た。

 

---


 ここは城下町の宿屋。

 ギルドに最も近く安いという理由から一部ギルド専用宿舎となっているが、構造が複雑で部屋番号はバラバラ、一度入ると同じ場所には出てこられないということもあり、ギルドでも限られた者しか利用していない。

 一カ月前、辺境の村からギルドに入った金欠の俺には、恰好の宿屋だった。

 そんな宿屋で俺は朝食をとるため食堂を探していた。


 (経験上、食堂は大体一階か二階なんだが)

 

 残念ながら今日はそのどちらにもなかった。

 たかだか一カ月で何が経験上だよと、自分でツッコミを入れつつ仕方なく三階まで戻ろうかと階段に足をかけたとき…。


 「ジークさんこっちですよ!」


 声の方へ振り向くとさっきまで壁だったところには食堂があり、中から少女が手を振っていた。

 彼女は「シャリー」という猫系亜人種とケットシーのハーフだ。

 

 「ありがとう」

 

 短くお礼を言い隣に座らせてもらった。

 彼女はすでに食事を終えているらしい。

 年は俺の方が二つ上だがギルドに在籍している期間は彼女の方が三カ月ほど上だ。 

 最近は彼女と同行してギルドの任務をこなすことが多い。

 残念なことに二人きりではないが。

 

 「今日の任務は?」


 目の前に現れた朝食をつつきながら尋ねた。

 親しいとはいえ女性と話すのは若干緊張する。

 出会った時には決まってこの質問をしてしまう。

 彼女は俺に比べかなり早起きで早朝からギルドに顔を出して任務を俺の分まで確認してくれている。

 たまたま確認していなかった場合、会話が詰む、そろっと新しい話題の切り出し方を考えなくては…。

 というよりこの甘えた状況を変える方が優先だろう。

 とゴチャゴチャ考えていると。


 「む~。ジークさん、尋ねておいといて聞いてないのはヒドイですよ」

 

 はっ!!まずい。


 「すまん。もう一度言って」

 「私は木こりの護衛。ジークさんは南の森にワームの駆除。どっちも夕方までです」

 「また南のワーム駆除かよ。ここ一週間ずっとそれだぞ」


 俺はがっくり肩を落とした。

 まあ、評価の低い新米だし仕方の無いことなのだが、ワームの駆除はすこぶる面倒くさい。

 刃物で切りつけると傷口から酸性の体液をまき散らし装備を溶かす。

 鈍器はブヨブヨした体に大したダメージを与えられず、モタモタしていると囲まれる。

 魔法は「突然変異の危険がある」と学者達が言っているので使えない。

 そのため駆除には専用の小火器を用いるのだが、それがかなり重い。

 南の森ということもあり年平均気温は45度、湿度は80%、そんな中で蚊型等の小さな魔虫に刺されないよう、これまた専用の厚い防具を着用しなくてはならない。

 

 「抗議してみようか」


 いつの間にか肩にとまっていたアルトの分のパンを千切りながらつぶやいた。


 「まあまあ。護衛は午前で終わるのでお手伝いに行きますよ。じゃあお先に!」


 と尻尾を揺らしながらシャリーは行ってしまった。

 早く評価を上げ環境的に楽な任務がしたい。

 残った朝食を牛乳で流し込み俺もギルドへ急いだ。


---


 人間という種族は、たかだか生きて100年、そのうち最高の力を発揮できるのは15~60歳までと言われて

いる。

 現在、俺は23歳、残り37年。

 その中で俺の最終目標はギルドでの評価を最大まで上げることでも、一生遊んで暮らせるだけの金を稼ぐことでもない。



 勇者を討つことだ。

 

 

 

初めての投稿となります。自分の妄想をぶつけていく中で矛盾等起こらないよう努力しますので、よろしくお願いします。

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