page 9 -ありがとうー
わたしは、なんでこんなにイラついてんだろう?
思う通りに波に乗れないから?雅弥くん達を羨ましそうに見ていた拓斗の顔を思いだすから?
やっぱり私が5歳も年上だから?
いろいろいろいろ考えていたらなんだか無性に泣きたくなった。
私は海から出て浜辺でへたりこんでしまった。
「みゆうちゃん?みゆうちゃん?どうした元気ないじゃないか」聞き覚えのある声、康さんの声だった。
私は、康さんの優しい顔を見たとたん、涙がドッと溢れ出してどうにもならなくなった。
「なに、泣いてんだい?」康さんは心配そうに私の顔を見ていた。
私は、今まであった拓斗とのことを康さんに話した。
「拓斗といると楽しいんだけど、どこか不安になって仕方がないの・・・」
そんな思いのたけを康さんに聞いてもらった。
「康さん、ありがとう、康さんに話をしたらなんだか少し安心した、元気が出たよ」
「うん、いいんだよ、みゆうちゃん、それでいい。泣きたい時は泣けばいい、我慢なんかしなくていいんだよ」
「そうだね・・・」
「みゆうちゃん、俺はたいした恋愛経験もないけれど、でもね、相手を信じるってことはとってもとっても大事なことだよ」
「うん、そうだよね・・・」
「そりゃ〜いろいろ不安な時もある、拓斗はまだ若い。でもみゆうちゃんはそれを承知でやつのこと好きになったんだろ?」
「うん・・・」
「だったらやつを信じてみゆうちゃんの思ったようにやってけばいいんじゃないのかな?」
「うん、わかった・・・」
「ただ、ひとこと言っておくぞ」
「なに?」
「圭ちゃんのことはどうするんだ?このままじゃ圭ちゃんにも拓斗にも悪いんじゃないのか?」
「・・・・・」
「圭ちゃんは寝たきりだし、これから先どうなるかはわからない、最悪な事態も起こりうるかもしれない」
「うん」
「お互いが後悔しないように今のみゆうちゃんの本当の気持ちを圭ちゃんに伝えておくべきではないのかな・・・」
「康さん・・・そうだね、そうしないといけないよね・・・」
「あ〜、たとえ圭ちゃんがその言葉を聞くことが出来なくってもな・・・」
「康さん、わかった、ありがとう、圭に今の私の本当の気持ち伝えてくるね・・・」
「そうだね、それがいい、頑張れよ!」
「うん、ありがとう」
康さんのその言葉を聞いてから、私は圭が入院している病院へ向かった。
ここ最近、私は彼の所へ行っていなかった。
圭のところへ行って圭にちゃんと謝らなきゃ・・・。
202号室 津山 圭殿
圭が寝ている部屋に入った私は、いつ目覚めることもなくベッドに横たわったままの彼の横顔をながめていた。
彼の頬に触り、髪に触れ、手を握りながら私は彼に謝った。
「ごめんね、ごめんね圭、あなたのそばにずっと居るよって、約束したのに私はあなたを裏切りました」
「あなたより好きな人が現れるなんて思いもしなかった。ごめんね、ごめん・・・許して・・・」
わたしは痩せこけてしまった彼の頬に最後のキスをした。
「圭、今までどうもありがとう、本当にありがとう・・・わたしはあなたの恋人で居られたこと、あなたの恋人だったこと
幸せに思っています」「圭・・・ありがとう・・・」
圭の表情が変わることはなかったけれど、でも、一瞬、彼が笑ってくれたように思えた。
でも、その日が彼とわたしが会うことが出来た最後の日になった。




