表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
28/31

page 28 −石吹島へー

海憂みゆう第2章ー

海憂と別れて1年間、俺は役者修行を兼ねながらアメリカで映画のロケをしていた。

こっちはいろんなものやいろんなことがすべて日本と違いスケールがでかかった。

俺は、毎日毎日、驚きの連続だった。自分という人間がちっぽけに見えていた。

いろんな風景を見て、いろんなことを学んで、俺は俺なりに成長していったんだと思う。

周りのスタッフの絶大なる協力を得て1年間の海外ロケと武者修行?は無事終了した。


「拓斗、お疲れ〜」

「よく、頑張ったな!」

「山根さん・・・ありがとうございます」

「どうなることかと思っていたが、たいしたもんだったぞ!」

「はい、ありがとうございました」

「明日から2週間OFFを取ってある、ゆっくり休んで、充電しておけ!」

「はい、わかりました」

「じゃ、お疲れさん!!」山根さんは珍しく上機嫌だった。


「は〜疲れた〜」俺は空港からまっすぐ家へと帰った。

明かりが灯っていないその部屋はいつもと変わらずそこにあった。

「1年か〜、長かったような短かったような・・・」

疲れてきっているはずの俺はその部屋に入ったとたん疲れが取れるような錯覚を覚えた。

そこは海憂と別れて1年以上は経っている場所なのに・・・

海憂が残していった様々なもの達が俺のことを優しく迎えてくれた気がしたからだったのかもしれない。

海憂、今頃お前はどこでどう暮らしているんだ?元気でやっているのか?石吹島に帰ったのか?

俺はなんだかせつなくなってみっともない位の勢いで泣き出してしまった。

海憂・・・海憂・・・俺は彼女の名前をなんども呼び返していた。


!ピンポーン!

小一時間ほど経った頃だろうか?玄関のチャイムが鳴った。

「だれ?」俺はぶっきらぼうにドアを開けた。

「お〜!」

「ま、雅弥〜」

「こんちは〜」

「美咲ちゃん?」

「拓斗、元気だったか?」そこには雅弥と美咲ちゃんが立っていた。

「久しぶりだな〜 さ、上がって上がって、なんにもないけどさ・・・」

「おじゃましま〜す!」

雅弥と美咲ちゃんは2年前に結婚していた。美咲ちゃんのお腹が大きくなっていた。

「雅弥?ひょっとして?」

「あ〜もうすぐ産まれるんだよ」

「そか、おめでとうな、やったな雅弥、お前もとうとう親父になるのか・・・」

「照れるから、そういうこと言うなって!」

2人との再会はなんだか楽しくあっという間に時間が過ぎていった。


「拓斗・・・」

「うん?」

「実はな・・・」

「なにあらたまって・・・」

「うん、おやっさんがおやっさんが・・・」

「おやっさんが、どうかしたのか?」


俺はショックだった。

俺が高3の夏休みにバイトに行っていた海の家 潮騒のオーナーだったおやっさんが先月亡くなったという知らせだったからだ。

海憂と出会うきっかけになったあの海で元気に働いていたおやっさんの大きな笑い声が聞こえてきそうで俺は辛くなった。


明後日あさって俺は美咲とおやっさんのとこへ行こうと思っているんだが、お前、どうするよ?一緒に行くか?」

俺はしばらく考えていた。あの海へ行くということはいやおうなしでも海憂との思い出が甦ってくるだろう。

おやっさんの死に加え、海憂との思い出の場所に行くいうことは、俺には辛いことだ。

「悪い・・・俺は多分行けないと思う・・・」

「そっか、仕事なのか?」

「うん、まぁ・・・」

「わかった、じゃ、俺たち2人で行って来るから・・・」

「あ〜、女将さんにもよろしく伝えておいてくれよ・・・」

「はいよ」雅弥たちは帰って行った。


おやっさん、おやっさん、なんで、なんで・・・俺はふたたび泣き出してしまった。


かっこ悪いよな〜俺・・・情けない・・・海憂がいたらそう言って、俺の尻をけっとばしていただろう・・・

そんなことを想像してみたらなんだかふいにおかしくなってきて久しぶりに俺は笑い出していた。


きっとたぶん、海憂が出て行った先は石吹島なんだろうと思う。

俺は1年前のあの日からアメリカに行くまでの1週間、彼女の居る場所へ行こうと思えば行けたんだろう・・・。

でもそれをあえてしなかったって事は今回のこのアメリカ強行武者修行&映画撮影をどうしてもしてこなきゃだめよっていう

海憂の言葉にならない声を俺がなんとなく感じていたからなんだろうと思う。

でも、ここに帰ってきた今、俺は迷わず彼女が居るであろう石吹に行ってみることに決めた。

明日、明日、石吹島に行ってみよう、おやっさんに会ってちゃんとお別れをしてこよう。

俺はすぐさま、石吹島へ行く準備を整えていた。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ