page 26 −別離ー
ー海憂第2章ー
海憂の細い指が俺の髪をそっとなでる・・・
海憂の小さな唇が俺の唇に触れる・・・
次の瞬間、海憂が泣いている・・・
どうした?海憂?海憂・・・?
ピピピピ・・・ピピピピ・・・
「!?」夢か・・・やな夢だったなぁ〜
今何時頃だ?俺はそばにある時計を止めた。
「10時15分?・・・」
「やべ〜起きなきゃ」俺はあわてて起き上がった。
今日は、たしか11時半から打ち合わせだと山根さんが言ってたな。
「おい、海憂?なんで起こしてくれなかったのさ〜海憂?」そこに彼女の姿はなかった。
テーブルの上に一通の手紙が置いてあった。
*拓斗へ
おはよ、拓斗。朝ごはんは用意してあります。ちゃんと食べていくんだぞ・・・
拓斗、今までの7年間、いろんなたくさんの出来事があったけれどどれも素敵な思い出でいっぱいです。
あなたと出会えてわたしは幸せだったよ。
7年前の夏の日、あなたと出会いあなたと恋をしてあなたとここまでともに過ごせてこれたこと
今のわたしには全部全部、宝物です。
こんな形であなたとさよならすること許してね・・・。
あなたはあなたの思うように生きていってほしい・・・。
あなたがもっともっと素敵な俳優さんになれること、遠くで見守っています。
拓斗、今までこんなわたしのそばにいてくれてどうもありがとう。
元気でね。わたしはきっとあなたのこと一生忘れません。ずっとずっと愛しているよ。
−海憂ー *
俺は目の前が真っ暗になった。さっきのは夢じゃなっかたのか?まさか・・・「海憂!!」
俺は気を取り直して、海憂を追いかけようと外に飛び出そうとしていた。
<ピリピリ〜ピリピリ〜>
携帯の音が鳴った。
「もしもし?海憂?海憂か?」
「拓斗?」その声は海憂ではなく山根さんの声だった。
「山根さん・・・」
「今日の打ち合わせ時間、相手の都合で繰り上がって10時30分になったからな。早く支度してでて来いよ!」ガチャ!
なんでこんな時に・・・
海憂を追いかけさせてもくれないのかよ。俺はその事がもどかしく今の自分の立場を恨んだ。
もっともっと俺がでかくなってればこんなことになんかならなかったはずなのに・・・
海憂、いったいお前はどこに行ってしまったんだ?
あの手紙を海憂はどんな気持ちで書いていたんだろう・・・。
「と、いう事だ・・・わかったか?拓斗?」
「・・・・・」
「おい!何を考えている?」山根さんのどなり声でおれはハッとした。
「は?なんでしょうか?」
「お前なぁ〜・・・」
「だから、1週間後、お前はロケに行くんだよ」
「ロケ?」
「そうだよ、今度のお前の映画、その企画でアメリカにロケに行くんだ」
「アメリカ?」
「そうだ、むこう1年間、みっちり役者修行をしつつ、アメリカでロケをしていい映画を撮ってくるんだ」
「えっ?」
「有無は言わさんぞ、これは前々からお前にあった仕事だったんだからな」
そう、それは1年前、俺がドタキャンした映画の企画だった。
その映画の監督さんが俺のことをどうしても起用したいとずっと考えてくれていた。
俺は海憂のことがあったから映画の出演は断っていた。
海憂を失ってしまった今、アメリカに行って勉強するなんていい機会かもしれない、海憂のこと、忘れられるかもしれない・・・
そう思った俺は、その映画の出演と役者修行を受けることにした。
アメリカにいくまでの1週間、ずっと海憂の携帯に電話してみても答えはいつも一緒「おかけになった電話番号は・・・」だった。
俺はいろんなことを考えた。海憂がどうして俺に別れを告げたのか、どうして彼女のこと
引き止めることが出来なかったのか、さまざまな思いが交錯するなか、俺は部屋を見回してみた。
彼女がいないその空間はいじょうなほど広く感じられ、俺の心は張り裂けそうになった。
海憂がここにいない、その現実をたたきつかされた気がした。彼女を無理して忘れることなんてできやしない。
このロケから帰国したら、俺はぜったい彼女を探し出して、そしてもう1回プロポーズをするんだ。
今度こそ、今度こそ、絶対に彼女と一緒になってやる!たとえ世間の人を敵にかえてまでしても・・・
彼女が居なくなったその部屋で俺はこの道からきっぱり引退しようとそう思っていた。