page 25 −悲しい決断ー
ー海憂第2章ー
チチチチチ・・・
俺は騒がしい鳥の声で目がさめた。
隣で海憂が寝ている。
そんな、彼女の寝顔を眺めていた。
「海憂・・・」
「うん?」
半分寝ぼけ顔の彼女の唇に俺はキスをした。
「海憂・・・海憂・・・」俺は彼女を軽く抱き寄せて彼女の胸に自分の顔を埋めた。
細く華奢な彼女の体は綺麗だった。俺はたまらなくなって彼女を抱いた。
ゆっくり優しく、今までにないくらい彼女のことを抱いていた。
「海憂・・・」「うん?」
「・・・・・結婚しないか?」
「えっ?」
「俺と結婚してくれ・・・」
「拓斗・・・」「本当に?」
「あ〜まじでだよ・・・」
「あ、ありがとう・・・」
「拓斗・・・」
「うん?」
「少し、少し考えさせてくれる?」
「あ・・・わかった、いい返事待ってる」
「ありがと・・・」
海憂からの答えがとっさに出なかったことが俺はちょっと気になった。
結婚か・・・
思いがけない言葉だった。そりゃ、拓斗とこのまま結婚出来るなんてすごく嬉しいことなんだけど。
ずっと、ずっとわたしが待っていた言葉でもあるんだけど・・・。
でも、これからって時の彼をわたしが独占していいのかな?
この子のためにも父親が必要なのかもしれないけれど・・・。
どうしたらいいんだろう?
これからの拓斗のことを考えるとわたしなんかが彼のそばに居てはいけないんじゃないかとも思う。
彼をこんなに好きなのにね・・・彼の子供もいるのにね・・・。わたしの気持ちは複雑だった。
俺が海憂にプロポーズしてからの1週間、俺は与えられた仕事をこなし海憂はいつものように仕事へ出かけ
普段となんら変わりのない生活を過ごしていた。
ただ海憂は悩み事でもあるのか、なんとなく元気がなかった。1人で考え込んでいる時間が多くなっていた。
彼のプロポーズを受けてからそろそろ1週間が経つ。
いろいろいろいろ悩んだけれど、これからの彼のためにわたしは彼の前から消えていく事を決めた。
彼と離れるのは身を引き裂かれるほど辛いことなのはわかっている。
でも、わたしにはこの子がいる。この子が一緒ならどんなに辛くても寂しくても悲しくてもきっと生きていける。
きっと強くなっていける・・・。
「海憂?この間の返事そろそろ聞かせてくれないか?」俺は彼女に聞いた。
「・・・・・」
「拓斗、ごめんね、わたしあなたとは・・・結婚できない・・・」
「えっ?」海憂の意外な言葉におれはとてつもなく驚いた。
「海憂?なんで?なんでだよ・・・?」
「拓斗・・・、あなたは今が一番大事なとき、その若さでこんな年上のわたしなんかと結婚したら、
また1年前と同じようになってしまう。
あの時、あなたは強がってはいたけれどどこかどこか辛そうだった。
わたしはそんなあなたをそばで見ているのがつらかった。怖かった。
このまま、あなたがダメになってしまうんじゃないかとすごく不安だった。
せっかくここまでのぼりつめたあなたの人生をわたしなんかのことでなくしてほしくないから
だから、わたしは拓斗とは結婚できない・・・ごめん、ごめんね・・・」海憂は俺の前で泣き崩れた。
「海憂、海憂はそれでいいのかよ?俺のこと愛してくれてるんじゃなかったのか?俺たちの関係ってそんなに軽いもんだったのか?」
海憂はただ泣いていた。
「海憂、もう1度考え直してくれないか?」
「拓斗、拓斗、わたしはあなたのことずっとずっと見てこれた、あなたのそばにずっと居られた、愛して愛されて、わたし幸せだったよ」
「だったら答えは出てるじゃないか・・・」
「でもね、だめなんだよ、わたしがあなたのそばにいちゃだめなんだよ・・・」それだけ言って海憂は寝室へと入っていった。
俺は彼女の寝ているそばに座り込み、彼女の寝顔を眺めていた。ただ茫然と彼女の顔を見ていた。
そしてそれがこの部屋で彼女の顔を見る最後の日になったんだ。