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page 24 −新しい命ー

海憂みゆう第2章ー

なんか、最近、体の調子が悪いな〜。

だるくってだるくってしょうがないや、胃もムカムカしてる感じがするし・・・

近いうちにお医者さんにでもいってこようかな・・・。


今日、仕事がひさびさに休みだったわたしは、部屋の中を片付けていた。

「う・・、気持ちわるい・・・」わたしはトイレにかけこんだ。

「・・・・・もしかして、妊娠?」

そういえば・・・わたしは自分の手帳を調べてみた。

「・・・・・」2週間、遅れてるな・・・でも、まさかね・・・疲れてるのかもしれないな。

でも、病院には行っておいたほうがいいかな?

わたしは、家の用事をさっさとすませて、病院へとむかっていた。


「帆苅さ〜ん、帆苅海憂さん〜」

「はい」わたしは、診察室で先生が来るのを落ち着かない感じで待っていた。


「お待たせしたわね・・・」年のころなら50代半ば位の女医さんがわたしの前に座った。

「帆苅さん、おめでとうございます、あなた妊娠してるわよ」

「えっ?」

「吐き気がするのはつわりのせいね、今、ちょうど妊娠11週目、3ヶ月ってとこね・・・」

「今、超音波の画像をお見せするわね」先生が1枚の写真を見せた。

「はい、ここがお尻、ここが心臓、で、ここが頭よ」わたしはそのモノクロの写真に見入っていた。


拓斗とわたしの赤ちゃん?信じられない・・・と思うと同時にいいようのない嬉しさがこみ上げてきて、わたしは泣きそうになった。

「赤ちゃんは元気なんだけど、あなた、ちょっと疲れてない?無理しているんじゃないの?」

たしかに、ここのところ仕事が忙しくって疲れはたまっていた。

彼の仕事がもう少し軌道にのるまではと思っていたから少々無理はしていたかも・・・


「お母さんが元気にしてないと赤ちゃんも元気に育たないわよ」

「はい、わかりました」

「あなた、まだ結婚されてないの?」

「はい」きつい一言だった。結婚か・・・・

「もし、産んであげることが出来ないならなるべく早く相談にきてくださいね」

「はい・・・」

「じゃ、お大事にね、後は母子手帳を受付でもらっていってね」

「はい」

「なるべく静養して体力をつけておくように・・・」

「はい、ありがとうございました」


病院を出てからの帰り道、わたしはただひたすら嬉しくって嬉しくって

いつもは立ち寄りもしないベビー服屋さんなんかに寄ってみた。

でも、家に一歩一歩近づくにつれ不安になってしまった。

拓斗は赤ちゃんのこと喜んでくれるだろうか?

産んでもいいよって言ってくれるだろうか、彼になんて言ったらいいんだろう?


女というものはそこに自分のもう1つの命を宿した時、あたりまえのように母親になる決心をするもんなんだな。

彼がたとえ反対しても、このことでもし、もし彼がわたしから離れていってしまうようなことがあっても

わたしはこの子を絶対に守ってみせる。その時、わたしは強くそう思っていた。


家の前に着いたとき、どこかで見覚えのある車が止まっていた。

「だれ?」

「帆苅海憂さんですか?」

「はい、帆苅ですが・・・」

「僕は、古坂拓斗のマネージャーをまかされております、山根と申します」

彼はそういって名刺を1枚差し出した。

「あ、いつも拓斗が、いや古坂くんがお世話になっております」

「唐突ですが、今日はあなたに頼みがあってここまでやってまいりました」

ひどく紳士的なその人はどこかきつい目をしてわたしの顔をじろじろと見ていた。

「こんなとこではなんですから、うちまで上がってください」わたしの声は少しうわずっていた。

「はい、お茶でもどうぞ・・・」

「あ、おかまいなく・・・」

「あの、言いづらいのですが・・・」山根さんはわたしが出したお茶をゴクリと飲みほした。

それから、彼が言った言葉にわたしは愕然がくぜんとした。

「拓斗と、古坂と別れてもらえませんか・・・」

「えっ?なんでですか?」わたしは予想外の言葉にショックを隠しきれないでいた。でも、なるたけ冷静になろうと思ってお腹の上を

そっとさすった。わたしにはこの子がいる、この子がいるんだ。一生懸命、自分にそう言い聞かせていた。

「古坂は、今ようやっと世間に認められてきた

今の彼には彼女とか、女の影とかそういったものは一切感じさせてはいけない時期なんです。一度落ちかけた人気をやっとここまで

挽回してきたんですから・・・ここで、またあらたなスキャンダルが出るという事は彼にとってはもう致命的だ。

そんなことになったら今まで彼を支えてきた多くの人間は大変なことになってしまう。

申し訳ないのですが、こちらの事情も理解していただきたい」それだけ言って山根さんは帰って行った。

わたしはどうすればいいのか、どうしたらいいのか、何も考えが浮かばず、放心状態のまま、暗くなった部屋の中にいた。


どの位の時間が経ったんだろう?もうすぐ拓斗が帰ってくる時間だ。ごはんの用意をしなくちゃ・・・


「ただいま〜」

「あ〜おかえり〜」わたしはつとめて明るく元気にふるまった。

「海憂、今日は、いい仕事ができたんだよ・・・」

拓斗が話しかけてきたけれどその時、彼がなにを言っていたのかなんて覚えていなかった。


海憂、なんか元気ないな?どうしたんだろ?

俺は昼間、山根さんに言われたことは海憂には言わないと決めていた。

俺は、事務所を辞めさせられても俳優の世界から追放されたとしても彼女と結婚しようと決めていた。

そのことで引退なんてことになってもかまわないと思っていた。

海憂と2人で石吹に帰って、そこで彼女とずっと一緒に暮らして行こうとそう堅く決めていた。


俺がもうすぐ25歳、海憂がもうすぐ30歳をむかえる頃だった。


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