page 23 −「別れろ!」ー
ー海憂第2章ー
海憂と家に帰った夜、俺は、石本麻衣とのいきさつを包み隠さず海憂に伝えた。
きっかけはどうであれ彼女とキスをしてしまったことも彼女と頻繁に会っていたことも・・・。
それでも海憂はもう1度あなたのこと、信じることに決めたと言ってくれた。
俺はその時思ったんだ・・・海憂には勝てないな・・・この女に真剣にやられたと・・・。
そんな出来事があってもしばらくは静かな日々が続いていた。
俺はといえば、映画のドタキャン、石本麻衣との噂、俺と海憂との関係は?なんて噂が引き金になっていくらか人気が落ちていた。
でも、俺はあせることなく、それでもなお、俺を必要としてくれるスタッフや番組プロデューサーとともにマイペースで
仕事をこなしていた。
いつしか海憂も落ち着いて、なんだかゆったりとした時間を過ごしていた。
「なんだか、こんな時間の流れ いいね・・・」海憂がポツリと言った。
俺も早くきちんとしなけりゃ〜な〜あんなことがあった後、海憂に申し訳ないと思う気持ちがあるがゆえ、あの時に言いかけた
− 結婚しよう −というその言葉をなかなか、言い出だせずにいた。
「ね、拓斗?」
「うん?」
「もしも、もしもあなたとわたしの間に子供が出来たら、名前、なんてつける?」
「え〜、俺はまだ子供のことは考えてもいないなぁ〜」
「まさか、出来たのか?海憂?」俺は正直あせった、いくら多少の仕事があっても子供を養っていくほどの稼ぎは今の俺にはない。
「もしも、もしもの話よ・・・」
「そうか・・・」
「わたしはね、もし男の子が出来たらあなたの斗とわたしの海をたして海斗ってつけたいの、でね、女の子だったら
夏海ってつけたいんだ、夏の海で拓斗に出会ったから・・・単純かな?」
「いいんじゃないの、海憂らしくって」
「ばかにしてるんでしょ?」
「してないって!」子供か、海憂には照れくさくって言えなかったけど、俺も彼女と俺の子供がほしいなって思った時があった。
でも、今は・・・もう少し稼いで海憂にはほんとうに楽な暮らしをさせてやりたいとそう思っていたから
そのことはあえて言わないでいた。でも、それって都合のいい言い訳だったのかもしれない。
そんな出来事から半年位経った頃、海憂や周りの人たちの助けもあって減ってしまった仕事の量もだいぶ増えてきていた。
「拓斗が地道に頑張った結果だよ・・・よかったね・・・」海憂はいつもいつだって俺のことをそうやって励ましてくれていた。
今度こそ海憂に結婚を申し込もう・・・。俺はそう誓っていた。
「おはよ〜ございま〜す」
「お〜おはよ〜」
「ざいま〜す!」
「拓斗!」
「はい、山根さん、なんですか?」
「お前、あの彼女とのことはどうなっているんだ?」
「彼女って・・・?」
「帆苅海憂さんのことだよ」俺はあまりに唐突に山根さんに海憂の名前を言われたのでドキリとした。
「俺もうすうすは感づいてはいた、石本麻衣のことがあったあたりから気が付いてはいたんだが・・・」
「・・・・・」
「俺は彼女と結婚したいと思っています」
「・・・・・」
山根さんはしばらく黙っていた。そして俺にこう言ったんだ。
「拓斗、お前の売りってなんだか知ってるか?」
「え〜まぁ〜、でもあれってなんか変すよね・・・」
「なにを言ってる、お前はファンにとっては自分の恋人、拓斗はわたしだけのものっていうイメージで売ってきたんじゃなかったか?」
「一度仕事をほされて、まわりのスタッフやお前のファンみんなに支えられてまたここまでやってこれたんじゃないのか?」
「それはそうだと思います・・・」
本当はそうじゃない、俺がここまでやってこれたのはなにをかくそう、海憂のおかげなんだ。
彼女がいつでも俺の陰日向になりこんな俺を支えてきてくれていたんだ。
俺がそう言いかけようとした時、山根さんが言った。
「彼女と別れろ・・・」とただ一言だけ。
俺の頭の中が真っ白になっていった。