page 20 ー孤独と不安ー
ー海憂第2章ー
その年、放映された俺のドラマはなぜか評判になりその事をきっかけに俺はスターダムへとのし上がって行った。
★今年、一押の若手俳優 古坂拓斗(24歳)★
なんてマスコミに騒ぎ立てられ俺は一人有頂天になっていた。
雑誌の取材やら、インタビューやら、写真撮りやらが続き、その時の俺には1日24時間なんて足りないくらいの忙しさだった。
当然のことのように俺は海憂の待つ部屋にはほとんど帰ることがなくなっていた。
帰るのではなく帰れない状態だった。
あの部屋で1人待つ海憂はいったいどんな思いでいたんだろう?きっと心細くて寂しかったに違いない。
でも、俺には次から次へと仕事が入ってなかなか彼女のことを考える暇がなくなってしまっていた。
携帯をかけようと思ってもそばには山根さんや大勢のスタッフがいる。
分刻みのスケジュールの中、少しだけ時間が空いた。
「もしもし、海憂?」
「拓斗?こんな時間にどうしたの?」
「うん、ちょっとだけ時間が空いたから」
「そう・・・」
「拓斗、今ね、あなたのドラマ見ていたよ、目での演技がとってもよくて、こっちまでせつなくなった」
「まじ?」
「うん」俺は海憂に誉められるとなんだか嬉しくなってこの仕事をここまで続けてきてよかったな、なんて思ったりした。
「ね、拓斗?」
「うん?」
「もう何日あなたと顔合わせてないんだろ?」
「なんだか、もう、わたし疲れてきちゃったな・・・」いつも強気な海憂が珍しく弱音を吐いた。
「なに、言ってんだ、もう少し落ち着いたら必ず海憂のところに帰るから・・・」
「うん・・・わかった・・・」
「古坂く〜ん、もうすぐ次の撮り時間!」
「はい、わかりました!じゃ海憂また電話する」ガチャ!「−−−−−」
拓斗はわたしをどんどん置き去りにして、手の届かないところに行ちゃったのかな?
もう、ここには帰って来てはくれないのかな?
もう、昔のように2人で抱き合うこともごはんを食べることもなくなってしまうのかな?
わたしは、一人、孤独と不安の中で泣き出してしまった。こら!泣き虫!海憂!いつからそんなに弱くなっちゃったの?
もう1人のわたしが怒っているように聞こえた。
わたしは、もうすぐ29歳になる。世間的にいえば結婚適齢期だ。
そんな気持ちがますますわたしを孤独にさせていった。
海憂が寂しい思いをしていることなんて知らずに俺は仕事にかこつけ、女優石本麻衣とあししげに会っていた。
彼女は俺より2つ年上の26歳、いまやおしもおされる若手の大女優さんだ。
彼女が俺に気があるのはうすうす感づいてはいたけれど、あえてそれを否定する理由などなく
ただ暇な時にお茶を飲みにいったり 居酒屋に酒を飲みにいったり、友達みたいな関係が続いていた。
何度か会っているうちに彼女からお誘い?のようなこともあったけど、俺は最終的に彼女に気を許してはいなかった。
俺の中にはいつもいつだって海憂のことがあったから。
少しばかり名が売れて、安定した収入が入ってきた今、俺は海憂との結婚を考え初めていた。




