page 10 -バーベキューの夜ー
「おい、拓斗!」「はい?」おやっさんが叫んだ。
「なんすか?」
「今日はもう店じまいだ」
「そうなんすか?」
ここ、海の家 潮騒では毎年、8月の15日には早く店をしまい、仲間うちでバーべキューをするそうだ。
「バーベキューか・・・楽しいそうっすね」
「早く片付けろ!」「は〜い!」
それから間もなくして涼平さん、俊さん、康さん、雅弥、美咲ちゃん、おやっさん、女将さん達が集まってきてガヤガヤとバーべキューが始まった。
「かんぱ〜い!」「かんぱ〜い!」
「おい、肉、肉!」「これまだ焼けてね〜」「ピーマンとってくれ〜」
「おい、雅弥、食いすぎだぞ〜」「あははは・・・」
「ほれ、みんな、野菜も食べなさいよ〜!」女将さんの明るい声がする。
「もろこしうまいね〜」「おい、ビール、ビール!!!」
みんなでわいわい騒ぎながら食べる肉はかくべつにうまい。
「ビール、いただき〜!」「おい、お前はまだ未成年だろ!雅弥!」
「おやっさん、ま〜堅いことは言わないでさ〜、せっかくなんだから・・・ね!」
「いしあたま〜!」「こら〜なにいいやがる!」
「ったく、お前はいつもそうやって・・・ばかもの!」「あはは・・・」
周りの人は大笑いだ。
でも、俺はそこに海憂の姿がないのが少し寂しかった。
「あっ!みゆうさんだ〜!」「みゆうさん!」「みゆうちゃん!」
みんなが彼女を迎えに行く。
「お〜やっと来たか、こっちきな、みゆうちゃん」康さんは俺の隣に海憂を座らせた。
この間、けんか?みたいな感じになって、それから彼女に会っていなかったから、俺はなんだか緊張した。
「こんちは〜」「お〜」
「みゆうちゃん、ここしばらくみかけなかったけど、どうかしたの?」女将さんが彼女に聞いた。
「うん、大丈夫だよ」「そ、それならいいけど・・・」「さ、飲んで、飲んで」
「はい、いただきま〜す!」海憂は、ビールをうまそうに飲んでいくらか機嫌がよさそうに見えた。
いい飲みっぷりだな・・・俺は、彼女の顔を眺めていた。
いろんな話をみんなで語ってたくさん肉を食って、ビールを飲んで・・・気が付いたら陽が傾いていた。
そうだ、俺はここでちゃんとけじめをつけよう。海憂と俺のこと、ちゃんとみんなに報告しよう。
「さて、そろそろ、お開きにしますか?」「そうだね〜」
「あの〜みなさんに報告したいことがあります」
「なんだよ、拓斗あらたまって・・・」雅弥が言った。
「実は、俺、俺は・・・・・・」
「海憂さんと・・・帆苅海憂さんと付き合っています!!!」みんな、ぽかんとした顔で俺のことを見ている。
しばらくの沈黙の後、俊さんが言った。
「そんなのとっくに知ってたよな〜」「なぁ〜?」
「うん、知ってたよ〜」「だってお前わかりやすいんだもん!」
「わっはっはっ!!」みんながいっせいに笑い出した。
「みゆうちゃん、よかったな〜おめでとう!やっとみゆうちゃんの気持ちが通じたね〜」
「や、やだ、康さん・・・」海憂は照れくさそうに笑ってそして少し泣いていた。
「たどりつくべきところにたどりついたな・・・みゆうちゃん」
「うん、おやっさん、ありがとね・・・」
「んじゃ、もう1回、乾杯しますか?」「お〜いいね!」「拓斗とみゆうちゃんの恋にかんぱ〜い!!!」
俺は、嬉しかった。これで、海憂と堂々と手をつなぎながら海辺も歩ける。そこらへんに買い物にも行ける。
やっと海憂を俺のものに出来たんだ。これからも彼女を大事にしなきゃぁな・・・大事に幸せにしてやる!
その日の夜、俺は初めて彼女の家まで送っていくことになった。
海憂はどんなところに住んでるんだろ?彼女の部屋はどんな感じなんだろ?そんなことを考えながら
海憂のその細い指を自分の手にからませ、そして彼女の手をぎゅっとにぎりしめていた。
「拓斗、今日はありがとう、あんまりに突然だったからびっくりしたよ、でも、嬉しかった、これであなたと私は
本当の恋人どおしになったんだね」海憂が恥ずかしそうにそう言った。
俺だって海憂と本当の恋人どおしになれたこと、すごく嬉しいんだぞ!
そんな言葉を言いかけたけどそれよりもなによりも今は、目の前にいる彼女を、海憂を抱きしめたくてただ抱きしめたくて・・・。
俺はそんな気持ちを抑えられなくなって、彼女のことを強く抱きしめそしてキスをした。海憂、愛しているよ・・・。
「拓斗、く、くるしいよ・・・、でもずっとこのままこうしてて・・・」
それから俺たちは、2人肩を寄せ合い、うでくみなんかしながら海岸沿いをゆっくりと歩いていた・・・。
海憂はとても嬉しそうに俺の傍らで笑っていた。




