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私は今日、友達を一人失う



その日は日直で16時30分の見回りまで帰れないため、私は悠希と二人きりだった。

たまたま魔が差したのではなかった。

私は今日の為に、友達を手下にするというサイアクな行為の用意をしてきたのだ。

この機会を逃せば、二人っきりになる時はもう当分ないだろう、と私は知っていた。

だって今はゴールデンウィーク前。

修学旅行があるけれど、それまで待ったらきっと私は取り返しがつかなくなる。


「…滝、今日なんか具合悪そうだよ?大丈夫?」


「え、そう?気のせいじゃない?」


「ホント?無理しないでね?」


安広悠希、私の親友。

お金持ちのお嬢様という理由で、学年では結構な有名人。


私は今から、彼女を私に隷属させるつもりだ。

大丈夫、やり方は覚えてる。

後悔は、きっとする。

でも。

私は震える手で契約の文字を指差した。

血を混ぜた文字だ。


「…これさ、ちょっと触ってみてくれない?」


泣きそうなのを堪え、努めて普通の声で問う。悠希の視線が紙面と私の顔の間で動いた。


「I swear you absolute obedience?なにこれ、まぁ良いけど…」


怪訝そうだった顔から表情が消える。

私は到頭泣き出してしまった。


「しゅじん、どういたしましたか?」


先程までとは打って変わり、悠希だったモノは機械的な動きで私を覗き込んだ。


「…前と同じ様に、振る舞え。」


しゃくり上げながらも最後まで言うと、やっと表情が戻る。


「滝は悲しむ必要なんて無いよ。」


心からの言葉でないとは分かっていたが、私は縋る様な目付きで悠希を見た。


「滝は私に何を望むの?」






人生は目の前にあるカードの使い方で変わる、というが。超えられない壁というものがあると私は思う。

選択肢なんて、私には一つしかなかった。

そう思わないとやってられなかった。




私がこのゲームの参加者となったのは、実は随分と昔のことだ。

それこそ物心つくかどうかの幼い頃だった為に、代理を立てることを認められたらしい。

全ては亡き父が担い、当の参加者である私といえば、ゲームのことなど記憶の片隅におままごとの一つのようにあるだけだった。ルールすら知らなかった。

それが徒となったのは数ヶ月前。

15歳の誕生日のことだった。


"年齢が一定に達しました。

   決闘拒否権が消失します。"


誕生日の夜、私は突然謎の空間に立たされた。

そこでは、なんとなく見覚えのある青年と謎の生物がこちらに背を向けていた。

向こうにはやはり謎の生物と、顔の見えないヒト。


私ははたと思い出した。

そうだ、お父さんに"人の使役"の仕方を教わったんだ…と。


でも"今"何をしたら良いのは分からなかった。

私はあっさり敗北した。


「なんでお前こんなに金持ってんだ」


ポンっと私の目の前にポップアップした文字は、口調からして男だった。


「えっ、どういうこと」


私の話した言葉が文字になって表示される。


「初心者記念でもやってんのか てかお前 チュートリアルクリアしてねぇだろぜってー」

「チュートリアル」

「最近は前と違ってあんま親切じゃねぇのかもな まぁやり方分かんねぇやつのが珍しいし」

「だから何の話ですか 教えてください」

「やだよ 自分でどうにかしろ」


向こうからしたら良いカモだったのだろう。同じ男に三回は仕掛けられた。

他の人にも。

私の所持金とやらは、みるみる減って行った。

最後に戦闘を仕掛けられた時には、もらえる額の少なさに文句を言われたほどだ。


警告も受けた。

"半年の敗北回数が九割を越えています。

六月三十日までに勝率が一割を越えなかった場合、全ての手持ちが破棄され、貴方は勝利者の配下になります。"

それだけは嫌だった。

だって、私は見たことがあるのだ。

敵陣で顔の見えないヒト(プレイヤー)にべたべたする、笑みを浮かべた女性たちを。

私は、だから悠希を。


そう、これはしょうがなかったんだ。

私だって知ろうとした。でも駄目だった。

この数ヶ月で唯一分かった役立ちそうなことは、時間を開けずに戦闘を仕掛けられると、自分側で戦ってくれるものが弱くなる、ということだ。

一番強い時だと、一体の鳥(?)と一人の人間。

他にも自陣には猫っぽい動物や狐っぽい動物がいることは知っている。


そして悠希が加わった。



「帰んないの?」

「あ、帰る。」


平時と同じ調子で悠希に声をかけられる。

今日一日…といっても土曜日なので4時間しか一緒にはいないが、昨日のことが嘘のようだった。


「今日って悠希の家行って大丈夫?」

「何時まででも。」


即答されて、ああ、聞くまでもなく彼女は無理にでも時間を作る気なんだろうと私は実感した。

まだ、悠希が私に服従しているという自覚が足りなかった。


「ねぇ、当日で遅くまで外出できる理由ってなんか思い付かない?」

「つまり今日私の家に行く理由?…そうだなぁ。

 "私は滝の制服にお茶をこぼし、そこらで服を買えば良いと言った。しかし滝がそれは悪いと言った。だがこのままでは風邪をひいてしまうと私は家に来ることを強く勧めた。"

…お茶だとすぐに落ちてしまうから、オレンジジュースとか色が落ちなさそうなのにした方が良いか。どう?」


少し考えただけで、悠希はぽんと案を出す。

私はブレインを求めていた。


「やっぱ、悠希は凄いね。」


私は電話を始めた。


「あ、もしもしお母さん?今大丈夫?…いやそれがさ、悠希にオレンジジュースかけられちゃって。え?悠希だよ、安広悠希…それは竹中さん!!!竹岡じゃないし、誰よ。悠希ちゃん!去年も同じクラスだったでしょ、そーそーその子!でね、服買うからそれに着替えてって言われたんだけど…でしょ?だから断ったの、うん…」


悠希を横目で見れば、普段ならスマホでもいじり出すところだが黙って通学路を歩いている。


「私も良いって言ったんだけどね、ほら悠希ん家って学校から近いから…うん、だから帰るの遅くなるよ、夕飯?流石にそれまでには帰るつもりだけど…うん。じゃーね。」


一応約束は取り付けられた。

どんな状況であれ友達の家に行けるのは嬉しい。

が、私の浮ついた気持ちはすぐに消えてなくなった。


「ねぇ、滝の言葉を聞き漏らさないように気をつけるのと、服従する前の私の行動をなぞるのとではどちらを優先すべき?例えば今回の場合、私がお母様との会話に割り込んで謝る、雲行きが怪しくなったらわざと声を入れる、などの対応をすべきだったと考えるけれど…。」


悠希が虚ろな瞳でこちらを見ていた。


「…服従する前の行動をなぞって。」

「了解。」



…怪しまれない為ではなく、私が苦しまない為に。

閲覧ありがとうございました。

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