それで目が覚めた
※綴り人短編企画。夏目漱石の夢十夜より始めの一文「こんな夢を見た」を使った短編です。夢十夜の内容は全く関係ありません。
主人公:北 北斗
「こんな夢を見た」
教室に入った早々に友人の東に話しかけた。
は? と、怪訝な顔をしてこちらを向いた東は、僕を見るとより一層眉をよせた。
「おまえ――」
「まぁ僕の話を聞いて」
チュンチュンと雀の鳴き声とともにカーテンの隙間から差し込む光。
まだ春先の肌寒い空気に身震いをして目が覚めたが、起きる気がしなかった。布団からはみ出た手足を、カタツムリのように引っ込める。体を覆う柔らかく暖かい布団が二度寝を誘う。
今日は学校だが、二度寝という甘い誘惑に僕は勝てず、二度寝をしようとした。
そこにコンコンとドアをノックする音が聞こえた。返事はせず耳を澄ますと、ギィとドアを開けた音が聞こえた。
仰向けで寝ているので、首を傾けて目を開ければ誰が入って来たのか確認できるのだが、それが非常に億劫で、僕は寝ることを優先した。
「北斗、起きて」
女性の声だった。高いソプラノの透き通る声。声からして母親ではないし、僕に女兄弟はいない。
ならばと、その声に該当する人を考えると一人だけ。隣に住む同級生の西の声だ。
小学校の頃から寝坊助な僕を良く起こしに来た事を思い出す。最近は部活の朝練が忙しいようで来なくなった。
西に起こされたいがためにワザと遅くまで寝ていたが、今ではそのせいで二度寝をすることが癖になった。
「北斗遅刻するよ?」
瞼を通して眼に入ってくる光がフッと暗くなる。西が顔を近づけているんだろう。声も近い。
手を伸ばせばきっと届くだろう。僕は西に触れようと手を挙げようとして――
「そこで目が覚めたんだ」
「で?」
「で?」
「続きあるんだろ?」
「……正夢だった」
「ほう」
目が覚めた僕は二度寝しようとしたんだ、癖になってるからね。そしたら、さっきの夢と同じようにドアがノックされたんだ。目が覚めてすぐに目を閉じたから、僕は夢と現実の狭間の中でぼうっとしてたんだ。
「北斗、起きて」
耳に届くのは女性の声。
「北斗遅刻するよ?」
そして、顔が近づく気配。
寝ぼけてた僕も悪かったんだ。
「西」
そう言って僕は彼女の首に手をまわした。
「なに寝ぼけてるんだい! 早く学校行きな、この馬鹿が!!」
その瞬間、力の乗った平手打ちを右頬に食らった。
「オカンだった」
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