独りで考えると鬱になるだろ、そりゃあ(1)
その日、楓は家に真っ直ぐには帰らなかった。帰り道とは逆方向。郊外のショッピングモールのスーパーマーケットの片隅に居た。
目の前で、残酷な天使のテーゼが鳴り響いているような気がした。
いや、実際、五月蝿い位に大音量で鳴っていた。
メダルがジャラジャラと音を立てて出てくる。まだ、100円しか入れていなし、座ってまだ1分とも経たない。
(こういうときに限って出るんだよな。しかも、メダルなんかもらってもナ)
そうは思ったが、せっかく出てくるというのに、無下に断るのももったいない気がしたようで、楓はじっと座っていた。
ムシャクシャすると、こうやって意味の無い浪費をするのが、楓の癖だ。
しかし、こんな時に使う必要の無い運も一緒に浪費してしまうのも楓の「癖」だった。
(勿体無いよ)
と、楓はずっと思っていた。
小さい時から、ずーっとこんな感じだった。
良いことと悪いことが、同じタイミングで来るので、なんだかんだで相殺されてしまう。
だから、何かを手に入れても、同時に掌の中の何かが出て行ってしまい、一定以上幸福になれない。その逆、一定以上不幸になることも無いから、見方によっては幸せのなのかもしれないが…。
楓は、自らのこの奇妙な現象を密かに「幸福質量保存の法則」と呼んでいた。
そう呼んで、独りで悦に入っていた。